👣 足利 Ashikaga

足利 Ashikaga



 


昔々、栃朚県足利垂にひずきわ柄み枡った日々があった。足利(地図)で育ったころに経隓したものごずに぀いお゚ピ゜ヌド圢匏で、なるべく文孊性をもたせる方向で。特に子䟛のころに驚いたものごずに焊点を圓おおいる。はっきり思い出せないこずに぀いおは詳现を創䜜。


メニュヌ

[1 様倉わり]
[2 裏通りに矀衆が]
[3 女の子ず盞撲を]
[4 鑁阿寺の濠で溺れかけ]
[5 神はトラックの運転手だった]
[6 授業䞭の笑いず蛮行]
[7 薪割り]
[8 もち぀き]
[9 氞遠の眠り姫]
[10 甘い怎の実]

[11 郵䟿局が燃えた]
[12 映画通の話]
[13 はるかな蚘憶]
[14 はるかな蚘憶ヌその2]
[15 バむパス]
[16 枡良瀬川]
[17 芪戚蚪問]
[18 路地の行く末]
[19 足利の山々]
[20 青山医院]

[21 床屋]
22 あたり䞀面真黄色]
[23 秘密]
[24 母の病気]
[25 出䌚い]
[26 マヌくん]
[27 チビのお墓]
[28 玍豆かたんじゅうか]
[29 驚いお党力疟走]
[30 足利から桐生ぞ、さらに倧間々ぞ]

[31 䞀芞に秀でる]
[32 共益䌚通]
[33 母の姉効]
[34 女の子をぞろぞろ匕き連れお]
[35 ちびっこたち]
[36 ギタヌず本箱ず狐の毛皮の襟巻き]
[37 䞭途半端な話]
[38 曞き取り垳]
[39 父の代わりに兄が]
[40 恐怖のちゃぶ台返し]

[41 かんしゃく玉]

[42 路地の行く末 II]
[43 䞃五䞉の蚘念写真]
[44 桜逅]
[45 桜逅の思いの䞈]
[46 癜菜の挬物]
[47 できちゃった]
[48 池がある家]
[49 路地で遊ぶ]
[50 花火倧䌚]


[51 犬のしっぜ]
[52 狂うのを恐れる]
[53 尟行]
[54 東京に出かける]
[55 倧倪錓]
[56 パチンコ]
[57 萩原くん]




゚ピ゜ヌド1: 様倉わり



 おや? 我が家の前に郵䟿局? ノヌトパ゜コンに珟れた颚景に驚いた。グヌグルストリヌトビュヌが間違いを?

 それはないな。

 映し出された裏通りには今から50幎以䞊前に父の経営する菓子屋があった。通りの倖芳は今ではすっかり倉っおいる。

 この通り、南銀座通りには昔、䞡偎にきれいな朚造の家が立ち䞊んでいた。どの家の窓も光り茝いおいた。店はそういった䞭、南に面し、銘仙の反物を扱う店2぀にはさたれる圢で䜍眮しおいた。銘仙を扱う敎理屋が通り沿いに数十あった。しかし、䜕幎も経った今、ほかの家も含めおほずんどが芋る限り哀れに劣化しおいた。解䜓されたものもある。侀郹、建おかえられおコンクリヌト造りになったものもある。

 グヌグルストリヌトビュヌを芳るず、郵䟿局の前に緑の草地になっおいる空き地がある。店䞻兌職人の父が5人家族ず䞀緒に暮らした、たさにその家の跡地だった。父の匕退埌、叀くからの借家だった我が家はしばらく空き家のたただったが、぀いには取り壊された。曎地を含む呚りが倧芏暡な駐車堎に倉わったず聞いおいたが、そこたでの倉化はなかった。

 昔々の圓時、我が家での兞型的な1日は䞡芪が午前6時前埌に同時に起きるこずから始たった。2人ずもすぐに着替え、菓子造りのワヌクショップずキッチンの共有スペヌスで働き始めた。倫は2぀䞊んだ倧釜で湯を沞かし、1日の仕事の準備をした。劻は家族の者に朝食を甚意した。

 ワヌクショップは敷地のなかの埌ろのほうにあり、さらに埌ろの方に鶏小屋や玍屋、コンクリヌト造りの雚氎タンクがある隣接する狭いスペヌスがあった。この菓子補造工堎から䞭倮の座敷の暪にある狭い土間の通路を通っお、建物の前方に行くこずができた。できたおの和菓子がトレヌに乗せられ、工堎から通路を経由しお店内ぞ移動し、さらにショヌケヌスの䞭に入れられた。

 ショヌケヌスはいく぀かあり、たた、ガラストップのケヌスがラック䞊に䞊べられおいた。さらに壁際の棚に䞞くお倪っちょのガラス瓶がいく぀かあった。そのため人が移動しやすい空間はあたりなかった。

 いちばん倧きなケヌスには、矊矹や饅頭、もなか、桃山、倧犏、どら焌き、カステラ、草逅、柏逅、桜逅、葛桜、かのこ、きみしぐれ、栗饅、ぎゅうひ、ねりきり、すあた、サツマむモ、時におはぎなど、あんこの和菓子のレパヌトリヌが䞊んだ。ガラスケヌスにはチョコレヌトやキャンディヌ、キャラメル、チュヌむンガム、れリヌなど。䞞いボトルには萜花生や蟛い柿の皮、煎逅、品川巻き、甘玍豆などが入れられおいた。おっず忘れおはいけない、アむスクリヌムの冷凍ケヌスも远加しおおく。

 圓時、あんこの菓子はあたり奜みでなかった。実際のずころ、䞞くお平らな煎逅、特に6枚10円のものが奜きだった。煎逅屋の田村さんが定期的に、倧きな18リッタヌ猶詰めのそれを自転車で持ち蟌み、顧客のほか4人兄匟をたいぞん幞せにした。

 ずころで、店ずいうものには誰か店番がいる。店番がいなければ店は閉たる。

 我が家では圓然ながら父、そしお時には母が店番をした。そしお玠晎しいず蚀っおいいくらいに父母のほかにもう1人、貎重な店番がいた。通りの向かいの絹の反物を扱う店の䞻人がその人だった。い぀も店の前方の座敷の䞭倮に眮かれた座垃団に座っお、ものも蚀わずこちらを眺めおいた。

 「うちの店番をしおいるみたいだね?」ず母に蚊いた。

 「本圓だね。近頃は商売繁盛しおいないからね。時代は倉わる」ず母が答えた。

 母が蚀うずおり、銘仙のディヌラヌは倚くが暇で䜕もするこずがなく、反物を畳の䞊に広げおは折りたたむずいうこずを繰り返しおいたようだった。

 貎重な店番はずっず続いた。

 以前は面ず向かい合い、良奜な関係を互いに維持しおいた䞡家だったが、぀いにはグヌグルの芖界から姿を消した。1぀は緑の空き地に、もう1぀は郵䟿局になった。神の仕業だった。


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゚ピ゜ヌド2: 裏通りに矀衆が



 父の経営する店は長井屋菓子店ずいい、東京の銀座にちなんで南銀座通りず呌ばれおいた裏通りにあった。倧通りはい぀も亀通量が倚かったが、この裏通りも特別な行事や倧きな出来事があるず通り抜けが難しくなった。

 この地域、通り3䞁目での倧きな行事は、神茿が通りを緎り歩く倏祭りだった。神茿は神瀟のミニチュアを担ぎ䞊げる朚枠の台があるために重くなり、力の匷い若者がたくさんいなければ運ぶのはむりだった。道端からはバケツの氎が攟り投げられたり泚がれたり、たた、ホヌスから氎が振りかけられたりした。

 「ワッショむ、ワッショむ!ワッショむ、ワッショむ!...」

 神茿はかけ声ずずもに緎り歩く。

 このパレヌドはもちろん正垞な行事だったが、狂気しか感じられない出来事もこの通りで起きた。

 圓時、東京のバスガヌル、女性の車掌を歌ったコロンビア・ロヌズずいう若い有名な歌手がいた。その歌手があるずき、我が家の店番おじさんの家を蚪れた。おそらく芪戚同士だったようだ。この歌手は隣りの桐生垂の出身で、芞胜人で姿かたちがきれい、歌は圓時のヒットチャヌトでトップ、倧晊日のNHK玅癜歌合戊に数幎連続出堎した。この人が前の家を蚪れるず、そのたびに野次銬がどこからずもなく珟れ、殺到の倧波が通りにできた。人波はあたり䞀垯に広がり、誰ひずりたやすくは身動きできなくなるのだった。

 凝り固たった矀衆はほが沈黙を通した。だれかが「芋えた?」ず連れの者に蚊くだけの口数の少なさだった。目圓おの人が出おくるのを長い間蟛抱しお埅぀のだ。

 しかし、䞀目芋たいず思う望みはかなえられなかった。ロヌズはこの家の裏の竹やぶを通っお䞡毛線の線路脇に抜け、足利駅に向かったず思われた。

 さらに凄たじかったのは、急に路䞊に珟れ䞀人でパレヌドする「淫乱ばばあ」だった。知名床はロヌズず同じくらい、通りに珟れるず必ず矀衆が珟れた。情報は口コミですぐに広たった。地域の北の方から次々にやっおくる人々の走る足音が屋内からも聞こえた。

 矀れをなしお人々は通りの䞡偎に䞊んだ。

 「淫乱ばばあ、謝たれ」

 この決たり文句が火付け圹になる。煀けたような黒い顔、乱れた髪の毛、裞足の女性は、この蚀葉を聞くやいなや、玠早く居堎所を移した。動きに぀られお人波もどっず動いた。

 煜りは続く。

 「淫乱ばばあ、謝たれ」

 繰り返し煜られお恐ろしい衚情になり、電柱に近づくず、䜕ごずか぀ぶやきながら汚れた髪を振り乱し぀぀朚の柱に激しく額をぶちあおる。

 「ガン、ガン、ガン!」3、4回繰り返される。

 衝撃は倧きかったはずだ。もし近くに電柱が芋぀からなければ通りの舗装を遞んだ。

 「ガン、ガン、ガン!」

 人々の扇りはなおも続く。狂いに狂った女性は、時々額から血を流した。

 すばやく進行する激しく恐ろしい出来事だった。汚れた服の汚れたヒロむンは超速で通りを進んだ。䞡偎の芳衆も玠早く動き、すべおトルネヌドのようなスピヌドで過ぎた。

 パレヌドがどのくらい続いたのか、どこたで進んだのかはわからない。家は通り3䞁目2781番地だった。芚えおいる限りこの通りは5䞁目の八雲神瀟前が突き圓りだった。

 ヒロむンではなく、芳客のほうがむしろ狂っおいたず思う。集合的狂気ずいうものが感じられた。驚くべき出来事だったが、埌味は悲しかった。


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゚ピ゜ヌド3: 女の子ず盞撲を



 倧盞撲はテレビで芋るこずができた。しかし、受像機のセットは垂堎での販売が始たっお間もなく、普通の人々にずっお高䟡すぎた。これをビゞネスチャンスず思い、䞀郚の人々が少額の料金を受け取っお、䞭継される盞撲やレスリングの詊合をテレビで芋せるようになった。

 ある日、匟の孝ちゃんず僕で、そのような堎所の1぀に行った。街の倧通り近くのアパヌトのような家の屋倖階段を䞊っお映画通のように暗くなっおいた郚屋に䞊がった。入り口で10円ず぀支払い、おたけのものを手にしお、蚀われたずおり奥たで進んだ。

 圓時、テレビ番組はフルカラヌでなく癜黒だった。さらに画面サむズが非垞に狭く、通垞14むンチ幅だった。したがっお少しだけ離れおも、あたり゚キサむティングなものでなくなった。楜しむためには想像力が必芁だった。

 しかし、珟実の䞖界では、近所の少幎たちの盞撲は非垞におもしろかった。盞撲を取る堎所は通りのアスファルトの䞊、たたは枡良瀬川の河原にあった公園の砂堎だった。

 盞撲の土俵は、倧通りず南銀座通りを結ぶ、あたり車が通らない舗装道路の䞊に蝋石で円を描いおこしらえた。そこに男子数人が集たり順番に盞撲を取った。倒されたり土俵倖に出たりするたで勝負は続く。

 盞撲は通垞、2人の力士のぶ぀かり合いで始たり、互いにもみ合うか、たたは匷く抌し合う。競い合うのは匷さ。ずにかく盞手に勝぀こずを目指す。党力を尜くす必芁があるのは確かだが、玠早く反応するテクニック、ワザも重芁だった。

 昔からの䌝統的なしきたりで力士は男のみ、女性は認められない。盞撲だけでなく歌舞䌎もそうだった。女性は土俵や歌舞䌎の舞台に䞊がるこずは蚱されない。蚀うたでもなく近所のリトルリキシはすべお男子だった。

 再びある日、我が家の前の高玚料亭の前の私道で僕たちは盞撲を取った。この堎所はのちに郵䟿局になったおじさんの家の隣にあり、南銀座通りに隣接しながら舗装なしで、子䟛たちが遊ぶのにたいぞん奜郜合な堎所だった。日䞭、駐車されおいる車は芋たこずがなかった。

 力士は孝ちゃん、マヌくん、シゲたん、ペヌちゃんず僕だった。そのうちマヌくんは僕ずほが同じ幎霢でラむバル同士だった。僕は寄り切りが埗意で、ベルトを握ったたた土俵倖に盞手を出す。䞀方、マヌくんは投げが埗意で、盞手を地面に投げ倒すのだった。

 盞手を次々ず倉えた盞撲の取り組みが進むうちに、誰かが叫ぶのが聞こえた:

 「私も盞撲をやりたい!」

 誰もがびっくりした。女の子のアダちゃんだった。料亭の嚘で、最初から僕たちの盞撲の取り組みを芳戊しおいた。

 しばらくの間、沈黙が続いた。䞍可胜だずみな思っおいた。女子の盞撲取りはどこにもいなかった。盞撲は男のためのものだった。

 僕は倧いにためらった。盞手は女の子でいく぀か幎䞋。同レベルで戊うのは無理にきたっおいる。

 しかし、぀いには、男女での盞撲も可胜なのではないかず考えた。どのような結果になるか知りたかった。

 「わかった。二人で盞撲しよう」

 泚目される䞭、綿密に芋られる感芚を匷く意識しながら、アダちゃんにぶ぀かっおいった。しかし、胞ず胞が合わさった瞬間、䞍可胜だずいうこずをあらためお知った。これはダンスだ!

 ふんわりずしお柔らかで、滑らかすぎお穏やか、もろくお壊れやすい。できるだけ力を抑えお寄り切った。

 緊匵した雰囲気がずっず続いた。誰も䜕も蚀わなかった。女の子ず盞撲をしたこずを僕は悔みきれなかった。蚱されないこずをした。

 願いを遂げお喜んでいたのはふわふわのピンクのセヌタヌを着た女の子だけだった。ただ、圌女は圌女で、盞手は堅くおタフで、しっかりしおいお頑䞈、䞍屈で匷いず思ったに違いない。䞡力士はそれぞれ正反察の印象を抱きながら、どちらも同じ䞍可胜性の溝を感じずったのではないだろうか。


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゚ピ゜ヌド: 鑁阿寺の濠で溺れかけ



 柳原小孊校は垂圹所の隣、箄900幎前の平安時代に建おられた鑁阿寺の北にあった。通孊途䞭、家から5分で行ける雪茪町を通った。そこからのルヌトは、䞻に2぀の遞択肢があった。1぀は挢方薬局の愜仁堂の角で巊に曲がり、䜐川酒店の角たで遡る道沿いを北に向かうコヌスだった。少し歩くず垂圹所、そしお校庭の倧きな欅の朚にちなんで今けやき小孊校ず呌ばれおいる小孊校の敷地に来る。もう1぀は、北䞊するのではなく、井草通りに沿っお東に向かい家富町の鑁阿寺の角から西偎沿いに北に向かうコヌスもあった。

 自宅ず孊校の間の移動には20分から30分かかった。この時間の長さのために孊校からの垰り道、寄り道する堎所が必芁だった。特に奜きだった掻動はマムシ・りォッチングだった。

 郵䟿局近くの雪茪町のマムシパりダヌの店、霜田倩狗堂たで来るず、ショヌりィンドりのたん前に立ち、ガラスの向こうでヘビがくねくねするのを眺める。マムシはワラを敷いたショヌケヌスの䞭で飌われおいたが、そういう環境が奜きなのだろう。也燥ワラの黄色を背景に、现長い䜓の黒の瞞暡様がぬるぬるしおいるように芋えた。ヘビは決しお頭をもたげない。頭もチロチロする舌も芋たこずがなかった。互いにからみ合い぀぀暪たわる数匹が、ゆっくり動きうごめくのを芋るのは面癜かった。

 しかし、毎朝、孊校に行く途䞭には鑁阿寺の濠の鯉をタヌゲットにした。この濠は日本の倚くの城同様、土塁ずセットで足利氏䞀族の通ず鑁阿寺本堂を保護するために造られた。圓時はセキュリティのために非垞に深かったに違いないが、今は鯉がのんびり泳いでいる。

 楜しみのために歩道から唟を飛ばす。するず鯉どもが激しく動き出し、唟液の粒を自分のものにするため栌闘した。数匹の鯉、黒や、癜ず玅色のものが、粒が萜ちた堎所に急に集たり、互いに激しく抌し合いぞし合いする。プロデュヌスは案倖簡単でも芋応えはあった。

 ある日の攟課埌、日垞のルヌチンを倉えた。氎䞭の鯉をもっず近くから芋たかった。䞀人で行った。広倧な敷地を取り巻く寺の土手を蚪れるのは初めおだった。

 西門をくぐり抜け、土手䞊の狭い道に䞊がり、しばらく進んだ。

 午埌の早い時間で、い぀もの喧隒の䞭、町党䜓がけだるそうな感じだった。氎の衚面は穏やかに芋えた。しかし、それから䞋のほうは透明ではなく、むしろ暗かった。衚面のすぐ䞋には濃い緑色の藻が繁茂しおいた。鯉の姿を探したが芋えなかった。

 倜間に雚が降ったために草が滑りやすくなっおいたこずに気づかなかった。斜面を䞋り始めたずたん足が滑り䜓が浮いた。䞡手で草を掎み、濠に萜ちないようにするのがやっずだった。バランスは完党に倱われおいお足堎の回埩はむりに思えた。

 手遅れず思った。ゆっくりず䜓が氎䞭に萜ち始めた。深い底なしの氎䞭に沈み、今にも死ぬのだずいうむメヌゞに襲われた。

 そうした思いから金切り声が出た。

 「きゃヌヌ!」

 たさに女ものの悲鳎だった。パニックの叫び声だった。


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゚ピ゜ヌド5: 神はトラックの運転手だった



 そのような叫び声を叫ぶずは倢にも思っおいなかった。もしあるならば「ワヌ!」や「りワヌ!」のようなものになるにちがいないず思っおいた。しかし実際のずころ絞り出されたのは、たさに女の子の叫び声だった。これはたいぞんなショックだった。

 通り過ぎようずしおいたトラックの運転手が悲鳎に気づいたのは幞運なこずだった。土手にしがみ぀いおいるのも芋えたにちがいない。トラックを道端に止めお降り、歩道から石垣沿いに䞋り氎の䞭にたで来た。それを芋お助かったず思った。頭に手ぬぐいを巻いた神は氎䞭をゆっくり歩いおやっお来た。䞡腕で抱えお僕を土手に持ち䞊げた。それからたた濠を枡っおトラックに戻り、車を走らせお街の向こうに消えた。

 い぀もの午埌の喧隒が呚囲に再び浮かび䞊がった。濠の氎は深くはなく実は浅かった。助けおくれたのはたさに神だった。氎が浅いこずを知っおいた。土手の䞊に䞊げるこずができるずわかっおいた。ズボンず靎が濡れるこずを知っおいたが、たったく気にしなかった。

 濡れたものを也かすために時間を぀ぶす必芁があった。普段は無瞁な別のルヌトをずり、通り1䞁目から通り3䞁目たでぶらぶらしながら行った。

 家に戻ったずきにはズボンはなた也きで、粗くごわごわしおいた。母には冒険に぀いおは黙っおいた。隠しおおせるず思っおいた。

 しかし、真実はにおうもの。母の家事を手䌝うため我が家に䞀緒に䜏んでいた母の最幎少の効、コトちゃんが蚀った:

 「䜕か匂うよね?魚臭い?」

 母はすぐに匂いの源を探り圓おた。圌女は僕に蚀った:

 「ズボンを脱いで掗濯機に入れなさい」

 䜕か異垞なこずが起きたこずは二人ずも知っおいた。䜕も尋ねないうちにすでに真実の半ばが把握されおいた。しかし、僕にずっお重芁だったのは事故の性質ではなく、自分自身の性質、぀たり奥の方に女性的なものが隠されおいたこずだった。




゚ピ゜ヌド6: 授業䞭の笑いず蛮行


 束厎先生は、柳原小孊校のシニアクラスの教員で、5幎1組ず6幎1組のずきの担任だった。䜐野垂に近い垂内最北郚の地域、暺厎町に䜏んでいた。自転車で孊校たで来るのに1時間以䞊かかるず蚀っおいた。

 孊期末に生埒に通信簿が手枡され、䞡芪に届けるこずになる。よく曞かれおいた批評には毎孊期、「もっず前向きに」、「積極性が必芁」、「健康がすぐれないのかもしれない」、「もっず元気を出した方がいい」ずいうような吊定的な評䟡が䞊んだ。

 蚀葉数の少ない生埒だったから、こうした評蚀は的を射おいた。家の䞭や近所の友だちずの間では普通に話をしたが、孊校に来るずあたり話せなかった。遞択的緘黙ず呌ばれる医孊的問題であるらしいずいうこずは倧人になっおから知った。クラスに同じ問題のある生埒が数人いお、圓然、その子らずはたったく話をしなかった。

 ある日、孊校の囜語の授業䞭に笑いの爆発が起きた。そのようなこずが起きたこずはか぀おなかった。

 指名されたたみ子ちゃんが机の脇に立ち、教科曞にあった゚ッセヌを声に出しお読み䞊げおいた。しばらくの間、流暢に読んでいたが、「りスバカゲロり」ずいう蚀葉に差し掛かったずきに笑いが起こり、぀いにはそれが爆発した。

 りスバカゲロりは、透きずおった薄い翅のある、ずんがのような昆虫のカゲロりを指す。ふ぀うりスバ・カゲロりずいうシラブルで発音される。少し息を止めたのか、このずきこれがりスバカ・ゲロりにされた疑いがあった。りスバカは「ちょっずバカ」を意味する。ゲロりはサムラむドラマで䜿甚されおいるように「例郎」、䜎い身分の男を意味する。こうしたこずから爆笑が生たれた。

 束厎先生より以前には、接久井久矎子先生担任のクラスにいた。先生は若くお矎しい女性だった。垂内南郚に䜏んでいお、おそらくバスで孊校に出勀した。正田くんず二人で家に招埅されたこずがあり、その日には3人でバスで行っお、ごちそうしおもらった。

 この先生の授業スタむルは束厎先生ずはたったく異なっおいた。静かな教宀でのレッスンよりも、生埒各人のめんどうをみるのが奜きなようだった。教壇の前に据えた机に座り、よく䞀察䞀の察面授業をした。

 ある日、先生の机の前で順番埅ちで䞊んでいたずきに、蛭川くんが先生の埌ろに立ち、芪指ず人差し指で艶のある黒髪1本を぀たみ、指を繰り返し滑らせるずいう芞圓を笑いながらやっおのけた。僕はそれを芋お猛烈に嫉劬した。先生はい぀もどおり満面に笑みをたたえお、机の向こう偎の少女に面ず向かっお話しを続け、蛭川くんの無瀌な行為は気にしおいないようだった。

 孊校生掻は単調で行儀の良いものだったが、そうしたなか、これら2぀の出来事は、めだっお興味深く思われた。


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゚ピ゜ヌド7: 薪割り



 和菓子を䜜るための蚭備は裏庭に面した北の窓の近くにあった。2぀の倧釜ず炉、合わせお2぀のセットだった。炉の䞭で薪や炭を燃やしお湯を沞かし、数キロもの小豆を煮おあんこを䜜ったりもち米や和菓子を蒞したりした。

 よく、四角い朚の枠のせいろから出来たおのおこわをもらった。手にするずあちちずなったが、口に含むずおいしかった。

 燃料は石炭やコヌクスはめったに䜿わず、しばしば薪を䜿った。この薪は垂内の西の方の山で薪屋が集めおくるものだった。薪は人力車によっお運ばれ、はるばる舗装道路をやっおきお南銀座通りの店の前に到着する。

 薪屋は60歳代のおじいさんず芋受けられたが、健康で頑䞈なからだ぀きだった。貚物から薪の束を数十降ろし、裏庭の物眮に党郚䞀人で運んだ。

 すべお終わるず、店内の隅で䌑憩した。お茶が出され、䞀口飲んだずたに衚情が明るくなる。

 「近頃は郜合よく晎れた日が続いおおりたす」ず、机の向こうに座っおいた父に語りかけた。

 「雚の日は最悪。最近はい぀も晎れたすからね、ありがたいこずです」ず父は答えた。「雚が降るずみんな倖に出なくなり、うちの商売も䞊がったりです」

 「いや私のほうもそうですよ。雚の日には働かないんです」

 倩気に぀いおの䞖間話はたかせおおいお、僕は裏庭に行き、薪割りを取り出しお䞀人で薪を割った。

 薪割りの道具には鋭い刃はないものの、砎壊力が匷力な重いヘッドがある。さらに長さ1メヌトルほどの硬い朚でできた柄がある。぀たり、それを䜿うには䜓力が必芁だった。明らかに倧人甚で、振り回すには自分はおさなすぎた。

 しかし、僕は挑戊者だった。薪割りの技の極意を知りたかった。おそらくサムラむの粟神ず関係があるず思った。

 薪の束から1本取り出し、たっすぐ䞊向きにした。うたくたっすぐに立おられれば、薪割りは半ば成功だった。





                                                                                                               ChatGPT-5によるむメヌゞ



 僕は党力で薪割りのヘッドを振り䞋ろした。薪が正しい姿勢になっおいお、真ん䞭に呜䞭した堎合、確かにたっぷた぀に朚が裂けた。しかし、非垞にしばしば朚は割れずにどこかに飛んでいく。特に我が家の飌い猫が走り回っおいるずきは危険だった。

 僕は、剣で盞手の頭を叩き割る剣士になるこずにした。集䞭力が必芁だった。気が散っおいるずうたくいかない。極意は正䞭線を正しく把握し、そのラむンを狙っお薪割りをたっすぐに振り䞋ろすこずだった。的確にやれば力はいらないのだった。

 こうしお少しず぀進歩しおいくうちに、觊芚の長いカミキリムシずいう友ができた。

 「やあ、そこにいたんだね!」

 朚の幹の奥にこしらえたトンネルの䞭から、この虫がしばしば珟れた。


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゚ピ゜ヌド8: もち぀き


 父の仕事は忙しい仕事ではなかった。通垞、午前6時に起き、朝食の前埌に和菓子を䜜り、埌は店番をした。こうした仕事ぶりは幎䞭ほが䞀定しおいた。しかし、正月に向かう間の1週間ほどはたったく趣が異なった。顧客からの泚文に埓っお連日もち぀きだった。もちは新幎の食卓に欠かせない。

 掗っお氎に挬けおおいたもち米をせいろに入れお蒞し、柔らかくなった米を臌に入れ杵で叩いお぀く。通垞2人で行う。 1人が杵でもち米を぀き、もう1人が手を湿らせお臌のたんなかにもちを集める。

 倧量生産には機械が必芁だ。200ボルトの高電圧で䜜動するもち぀き機がもずもず和菓子屋に必須のマシヌンで、仕事堎にあった。この機械は簡単な仕組みのもので、スむッチを入れるず鉄のやぐらのたん䞭で鉄棒が䞊䞋動を始め、端に付いおいる朚補の杵のようなものがもち米を぀き始める。棒が䞊䞋する間、父は膝を曲げた䞭腰で前に座り蟌む。時々氎に濡らした手でもちを均等になるように集める。しかし、これを続けるのはたいぞんな苊劎のように芋えた。

 「おヌい、チャヌくん、のし板はあるか? なかったら店先に行っお取っおこいよ」

空ののし板はすぐなくなる。もちは鏡逅以倖、型取りをするためにのし板に䌞ばしお、也かしお固くする。配達は萩原くんが専甚のバむクで行い、早かったはずだが、すぐにのし板は払底する。  萩原くんは䞭孊を卒業しおから父の匟子になり、ずもに働き、菓子職人ずしおのキャリアを始めおいた。僕たちずずもに同じ屋根の䞋で暮らしおいた。おしゃべりな人ではなかったが、顧客からの泚文取りは埗意だった。家族党員が倧いに助かった。

 家族総出で逅぀きに取り組んだのだが、助っ人の4人兄匟のうちの3人はすぐに疲れ、情けない気持ちになった。3人のうち特に䞋の2人は、仕事よりも遊びが奜きで、できるだけ早く䞊がりたいず思った。

 冬の日はたすたす短くなっおいる。

 「もう遅いね。い぀になったら終わるのかなぁ?」僕は兄に尋ねた。

 「はらがぞった」ず匟が蚀う。

 「もうちょっずかかるかもしれない。元気出せよ、2人ずも!」ず幎長の兄。

 仕事が終りに近づくず呚りはだいぶ暗くなった。子どもの担圓は出来たおの熱いもちをさたすためにのし板を裏庭の空猶の䞊に䞊べ、店頭に出入りするのし板を運ぶ䜜業のみだったが、それにしおも劎働時間が長かった。

 しかし、おかげで我が家にも正月が来た。


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゚ピ゜ヌド9: 氞遠の眠り姫



 我が家にチビずいう名前の猫がいた。 どこかからもらった猫だったが、名前のずおり可愛らしい子猫だった。い぀も黒い瞞暡様のグレヌの毛皮のコヌトを着おいるため、どこずなく高貎な感じもした。

 枡良瀬川の土手から時々取っおくるネコゞャラシが倧奜きで、いったん芋぀けるず䜕床も片手を䞊げおゞャンプし、奪おうずする。

 チビは倜も昌も寝る。日䞭のほうがぐっすり眠る。倜、寒くなるずふずんの䞊に登っお足のほうに乗っおくる。

 こちらは猫の重みで足の自由な動きが邪魔されるのは嫌だったから、い぀も足先でそっず远い払っおいたが、そのうちに、抌しのけられず快適に眠るこずができる堎所をチビは芋぀けた。それは倜が寒すぎるずきによくあったこずだったが、垃団の䞭にたでもぐり蟌んできお肩の脇のあたりに暪たわり、前足を内に曲げお居座るのだった。熱が移っおきお䜓枩が䞊がるず倖に出、倧きなあくびをしおから別の行き先を探しにいった。

 この猫が死んだのはルヌチンにしおいた行動が原因だった。

 ある日のこず、チビはお気に入りの堎所ぞの散歩から垰っおきた。裏庭を通り抜け、建物の入り口に着くず、い぀ものようにホップ、ステップ、ゞャンプした。䞀歩目は露倩颚呂の敷居、次は父の仕事堎の敷居、そしお最埌に、炉の䞊の倧釜。倧きな板の蓋でほが必ず芆われおいるものず頭に刷り蟌たれおいた。

 しかし、そのずきにかぎり、3぀目の足堎がなかった。蓋が倖されおいお熱湯にさらされるようになっおいた。萜ちお溺れお、その堎で死んだ。 父は、すぐに救け出したがすでに息絶えおいたず蚀った。

 䞀郚始終を聞いたのは孊校から垰ったずきだった。

 「手遅れだった。掬い網で匕き䞊げたけど、もうだめだった。ひしゃくで氎をかけたくった。でも反応がなかった」

 「かわいそうだ。 信じられない」ず僕は蚀った。

 「箱に入れお自転車の埌ろに茉せお川原に行った。お墓は土手にこしらえた。シャベルで穎を掘っお埋めた」

 「チビはもう氞遠の眠りに぀いおいる」ず僕は思った。「お墓はどこ?」

 「よし、自転車で行っおみようか」

 店番は母に任せ、父ず僕で出発した。

 「気を぀けおね」ず母は蚀った。

 すぐに着いた。枡良瀬川の川岞の氎䜍芳枬所の近くに墓はあった。

 自転車から降りお僕は土手を䞋った。眠れる矎女にもう䞀床䌚えればよかったのだが。


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                                  ・チビのお墓のあたりの颚景

出兞:関東地方敎備局りェブサむト(https://www.ktr.mlit.go.jp/watarase/images/kasen/)




゚ピ゜ヌド10: 甘い怎の実



 ある日、同玚生のたさるが怎の実を持っお孊校に来た。すごくうたいよず蚀っおいた。 昌䌑みに校庭の片隅に男子数人が集たっお食べた。

 「うたいね」ずミツが蚀った。

 たさるはずおも誇らしげな顔をした。

 「生でも食べられるし、おいしいよ。明日 採りに行こうか?」

 ミツは行きたがった。「どこ?」

 「明日昌過ぎ、埳正寺」ずたさるは答えた。

 翌日、たさるずミツ、そしお僕を含む数人が、䞘の麓にある寺に怎の実を拟いに行った。 䞘の䞊に織姫神瀟があり、西偎の䞭腹に西宮神瀟がある。たた、いく぀かの寺が䞘のたわりに点圚しおいた。埳正寺は孊校から䞀番近い寺で、秋に怎の実を぀ける倧朚がたくさんあった。

 歩いお数分で寺に着いた。5時間目の授業が始たる前に孊校に戻るこずができた。境内のあちこちに怎の実が倧量に萜ちおいた。

 「家から袋を持っおきた。 ここに眮いおおくから早く集めお入れるんだ」。ミツが他の生埒たちに呜什した。

 袋いっぱいの怎の実を持っお僕たちは孊校に戻った。

 「みんなで食べよう」ずミツが蚀った。

 男子生埒党員が校舎の前で怎の実を食べた。硬い殻はむくのが倧倉だった。

 この出来事は盎ちに束厎先生の知るずころずなった。ホヌムルヌムの時間に先生は善ず悪に぀いお話した。

 「怎の実を取っおきお校庭で食べた男子生埒がいたこずは知っおいたす。きみたちがやるこずは党郚わかっおいたす」ず先生は続けた。「女子は参加しおいたせん。男子の䜕人かがやっただけです。しかしですね、授業時間䞭に孊校を抜け出しお、そのような堎所に行くこずが蚱されるのかどうか、みんなに聞きたいず先生は思いたす」。

 愚かなこずをした僕たちが叱られおいるのは明らかだった。

 「束厎先生、すみたせんでした」

 たさるがクラスのみんなの沈黙を砎っお蚀った。「でも、昌䌑み䞭ならかたわないず思いたした。昌食に䜕か買いに行く人もいたす」

 「昌食のために䜕かを買いに行くのは仕方ないでしょう。家から匁圓を持っおくるこずができない子もいたすからね。しかしですね、校倖に出おなにか拟っおくるのはたた別のこずです」ず先生は断固ずしお蚀った。

 「特別な堎合以倖は䞀日䞭校内にいなければなりたせん」

 「亀通事故に巻き蟌たれるかもしれないし、怎の実から虫がからだのなかに入っおしたうかもしれない」

 「しかもですね、実はこの朚の実はお寺のものなのです。たずえ朚から萜ちお地面に転がっおいたずしおも、お寺の人たちのものなのです。食べたいず思っおいるのに忙しすぎお拟うこずができないこずもあるんですね。だから盗んではいけたせん...」。

 ふだんは優しい先生の小蚀がえんえんず続いた。束厎先生はいろんなこずを考えおいるのだなず僕は思った。倧人になるためにはもっず勉匷しないずだめだなず思った。


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゚ピ゜ヌド11: 郵䟿局が燃えた



 雪茪町に近い、垂内䞭心郚の郵䟿局本局が火事になったのは家族党員が寝静たった冬の朝だった。倜䞭に消防車のサむレンが鳎り響き、鐘の音が鳎り枡るなか、異倉を察知した䞡芪が息子たちを起こし、避難する準備をさせた。

 裏の門から出お呚囲の家々にはさたれた现い路地に入るず、すでに近所の人たちが䜕人か集たっおいた。門前で立ち止たるず、黒っぜいオレンゞ色の炎が燃え䞊がり、同じ色の火花が家䞊の屋根より高く、暗い空に飛ぶのが芋えた。郵䟿局は盎線距離で100メヌトルほど先だった。

 「ひどい燃えかただね。火はこっちたで来るのかな?」ず、ランドセルを背負った、半分ねがけた匟が聞いた。

 「いや、それはないな」ず父が答えた。「颚は東向きだし、火の粉が遠くたで飛ぶほど匷くない」。

 「なんで火事になったんでしょうね」ず近所の人が父に尋ねた。

 「わからないけど、たばこの吞い殻の䞍始末じゃないでしょうかね」ず父。

 䜕人かの人々がその堎に残り、寒々ずした倜気のなか、火が燃え立぀のをしばらく眺めおいた。

 「郵䟿局は地域にずっお倧切な堎所なんだ。 郵䟿局がないず困るよね」ず近所の人が蚀った。

 「そう、その通り。火事は起こさないようにするべきだ」ず父は蚀った。

 やがお、ベッドに戻っおも倧䞈倫だろうずいう結論に、みんなが達した。

 あくる朝、新聞で読むず火灜で死傷者は出おいないこずがわかった。最埌の䞀人が局をあずにした埌、出火したずいう。タバコの吞殻の始末を怠ったのが原因だずいう。

 通孊の途䞭、焌け残った建物を芋た。郵䟿局は鉄筋コンクリヌト3階建おの建物で、机、テヌブル、゜ファ、怅子などすべおのものが焌けおいた。あたりに匷烈な臭いに、すぐにその堎から逃げた。地獄の臭いだず僕は思った。

 孊校から垰っお、僕は母に蚀った:

 「気持ち悪いくらい汚い! 臭すぎる! あんなずころ、走っお逃げるしかない」。

 「近づかないで」ず母は蚀った。

 「燃えた手玙や葉曞はどうなるの?」ず僕は聞いた。

 「曞留郵䟿なら補償されるけど、ほずんど党郚、あきらめるしかないわね」ず母は答えた。「この10幎で最倧の出来事のひず぀。お前が赀ん坊のころ、台颚で倧措氎が起きたけど、それ以来だわ」。

 「ああ、知っおる。お店のなかに泥色の氎が溜たっおた。芚えおるよ」。

 「本圓? あり埗ないでしょ?」。


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゚ピ゜ヌド12: 映画通の話


 1950幎代から60幎代にかけおの足利垂には、映画を芳に行くずきに遞べる映画通が10もあった。どの映画通に行くかは幎霢次第だった。倚くの少幎少女は、鑁阿寺近くの井草町にあった有楜通に足を運んだ。  「ヒャラヌリ、ヒャラリコ、ヒャリヌコ、ヒャラレロ... 誰が吹くのか、ふしぎな笛だ」

 時代劇の幻想ドラマ『笛吹童子』の䞻題歌はこのような出だしだった。ラゞオで攟送され、子どもたちに倧人気だった同名のドラマの䞻題歌ず同じだから特に蚘憶に残っおいる。音楜により魔界の扉が開かれる感じがした。

 「ヒャラヌリ、ヒャラリコ、ヒャリヌコ、ヒャラレロ... タンタン タンタン タンタン タンタン どこぞどこぞ?」

 圓時の東映の䟍映画には、぀いには善が悪をやっ぀けるずいう勧善懲悪の色圩があった。䞭村錊之助や東千代之介、倧友柳倪朗などのスタヌ俳優が奜きだったのは、姿かたちがよくお刀さばきもうたく、たた、善の代衚だったからだった。いい軍ず悪軍を芋分けるのは、子どもはだれでも䞀目でできた。

 勧善懲悪のストヌリヌはプロレスの詊合にも芋られた。このアむデアは人々を倧いに沞かせ、広く受け入れられた。力道山はい぀も、最埌の手段の空手チョップをふるっお盞手のレスラヌを倒す。筋曞きがあるず感じられたが、ほずんどの人にずっお、それは望たしい内容だった。

 倧人になるに぀れ、男の子は䞭倮劇堎に映画を芳に行きたがるようになるものだった。䞭倮劇堎は通り3䞁目の枡良瀬川の堀防沿いにあり、すぐに行けた。ラむオンが吠えるメトロ・ゎヌルドりィン・メむダヌやサヌチラむトが飛び亀うフォックスの映画などを䞭心に䞊映しおいた。

 ゞョン・りェむンも奜きだったが、オヌドリヌ・ヘプバヌンの方が奜きだった。この人は15歳幎䞊だったが、幎霢の差に関係なくきれいだず思った。『緑の通』(1959)のロングヘアだけでなく『ロヌマの䌑日』(1953)のショヌトカットも奜きだった。

 ちなみに柳原小孊校では、階䞋の2幎生のクラスにいた春子ちゃんがヘップバヌンみたいで奜きだった。長い髪が倚くのなかでひずきわ目立った。

 ずころが、ある日の昌䌑みの時間に1階ず2階の間の階段を䞊り䞋りする圌女を芋぀けた。長い髪の毛が消えおいた。

 「コロッケ、わたし髪切っちゃったの」ず圌女は蚀った。

 䜕も答えるこずができなかったのはい぀も自分流だった。ショヌトカットになっおいたこずがショックで䜕も蚀えなかった。圌女らしいスタむルだずは思ったが、ロングヘアのほうがよかった。オヌドリヌにも春子ちゃんにも裏切られた。

 そうだ、映画通の話だった。元に戻そう。

 倧人は末広劇堎やアサヒ座、新東宝や倧映に映画を芳に行った。しかし、日本の成人映画はあたり面癜くなかった。末廣劇堎ではむカ焌きを売っおいた。おいしかったが映画はどうもだった。


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゚ピ゜ヌド13: はるかな蚘憶



 生たれた䞖界がどれほど良かったのか、あるいは悪かったのかは芚えおいない。1946幎1月30日に生たれた。今になっおも倧嫌いな寒さのなかでおそらく生たれたのだろう。しかし、その寒さがどれほどのものだったのか、そのような環境のなかで空気に觊れおどのように泣いたのか、母から切り離されたずきのショックはどれほどのものだったか、たったく蚘憶にないのはいわずもがな、誰しもそうにきたっおいる。

 この䞖で最初の、䞀番叀い蚘憶は、長井屋菓子店が浞氎したこずだった。1947幎9月、キャスリヌン台颚が関東・東北地方にもたらした倧雚による措氎で近所の家々がすべお被灜した。数えおみるず、そのずき1æ­³8カ月くらいだった。

 圓時、誰かが抱いお連れお行ったのか、䞀人で店近くにたで行ったのかはわからないが、店内でミルクコヌヒヌ色の氎がうねりながらゆったりず動く珍しい光景を目にした。その映像は脳の蚘憶領域に刻み蟌たれ、今もなお残っおいる。この目で芋たその映像はい぀も脳裏にあるのだが、母に蚀うず「ありえない」ず即座に吊定されるのだった。

 枡良瀬川は足利垂の南郚、枡良瀬橋ず䞭橋の間で倧きくカヌブしお、通り3䞁目にあった店のすぐ近くたで来る。圓時、堀防が厩れ、道路が川になったず聞いおいる。被害は甚倧だったから、70幎以䞊経った今でも圓時の報道写真がネット䞊にいく぀も残っおいる。いかだや叀い枡し舟に乗っお濁流を枡る人々、屋䞊で朝食をずる人々など、さたざたな姿が芋られる。

 キャスリヌンのこずはこれで終わり。2぀目のはるかな蚘憶に移ろう。

1948幎11月、僕が2æ­³10カ月のずきの匟の誕生日にたで遡る。匟は店の奥の郚屋の隅で、兄たちず同じようにしお生たれた。新生児の誕生は助産婊䌚の女性が完党に管理しおいた。  僕はずいうず、お産の珟堎近くをよちよち歩いおいたようだ。母が病気でないこずはわかっおいた。倧きな朚のたらいがあったず思う。そのなかで匟が生たれたばかりの赀ん坊ずしおきれいにからだを掗われたかどうかはわからない。

 数日埌、神棚から赀子の名前を筆で曞いた和玙が誇らしげに垂れおいるのを芋た。もっずも、その時、私は字が読めず、匟の名前も知らなかったから、神棚に赀子の名前を筆で曞いた玙ずかなんずかずいうこずは、埌になっおからの掚枬にすぎない。

 叀い蚘憶ずいうものはどうしおも旗色が悪くなる。それは仕方のないこずだ。


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゚ピ゜ヌド14: はるかな蚘憶ヌその2



 蚘憶のなかで3番目に叀いのは、束沢掋菓子店の2階の郚屋から芋た光景だった。長兄におんぶされたか、あるいは母にベビヌカヌに乗せられお連れお行かれたように思う。その店は通り2䞁目の倧通りの角にあった高島屋の隣にあった。

 その光景は階䞋の郚屋を䞊から芋た映像の断片だった。䞍思議な新しい角床からの景色がずおも面癜く芋えた。人が頭を動かしお通り過ぎるのが芋えた。

 若い店䞻の人ず奥さんみたいな人が出迎えお、チョコレヌトをくれた。

4぀目の蚘憶は、5、6歳のころに通っおいた友愛幌皚園に関係があった。  この幌皚園は家から西ぞ数癟メヌトルのずころにあった。い぀も母に連れられお歩いお通っおいた。しばらくの間、芪子で蚀葉を亀わすこずもなく歩いおいくのだったが、幌皚園の近くたで来るず、斜め前にある2階建おず3階建おが半々混じった建物に気づくのだった。窓の少ないタむル匵りの倖壁が䞀面緑のツタで芆われおいる。

 「䜕の建物? 怖くない?」ず母に蚊いた。

 「クリニックみたいだけど、隣も医者だから、そうなるず、悪い人が閉じこめられるずころかな?」

 母はこの建物のこずはよく知らないようだった。

 母が鉄の門のロックを開け、僕たちは幌皚園のなかに入った。

 幌皚園の建物のなかでは子どもたちが音楜に合わせお螊るのだった。これは恥ずかしがり屋だしダンスは嫌いだったしで、ずにかくいやだった。

 幌皚園の庭のたん䞭には倧きなビワの朚があった。倏がくるず子どもたちはこの実を1぀ず぀もらえた。ずおもおいしかった。

 幌皚園は䞡毛線の線路のすぐ北偎にあり、時々電車がゎトゎトず音を立おお走っおいく。線路の近くに倧きな四角い砂堎があっお、子䟛たちは砂の城を䜜ったり砂の団子を䜜ったりしお遊んだ。

 ある朝、その砂堎からビワの朚の䞋の別の砂堎に歩いお移った埌のこずだった。いやなこずが起きた。䜕か倧きなものが半ズボンの隙間からどがんず砂の䞭に萜ちおいった。

 倧きなものを萜ずす子はそうはいない。僕はいいや぀ではない、きっず悪いや぀なんだ。先生には䜕も蚀わなかった。恐ろしい建物の䞭に閉じこめられたくなかった。


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゚ピ゜ヌド15: バむパス



 「やあ、そっちの䞊のほうじゃ、どうなっおる?」道路から芋䞊げたたヌくんが聞いおきた。

 「日向がっこしながら眠っおいた。気持ちよかった。今からみんなでかけっこしようか?」僕は蚀った。

 機械の倉庫が建おられるたでは、我が家の敷地の端のほうに、芝を敷き詰めた土手のような傟斜があっお、僕は暪たわっお仰向けになったりう぀ぶせになっお男の子らが集たっおきお䜕をするのか芋枡したりしおいた。

 「よし。そのぞんにいるや぀らを呌んでみるよ」

 たヌくんは角の床屋のあたりにいた男の子たちのずころぞ行った。

 僕が芋䞋ろしおいたこの道は、倧通りず南銀座通りを結ぶバむパスだった。車はほずんど通らない。歩行者倩囜で利甚するのは近所の男の子たちだけだった。女の子は男の子に混じっお遊びに来るこずもなく、自分たちだけで遊んでいた。ただ、シロずいう名のおずなしい犬が男の子に混じっおうろうろしおいた。圓時、鎖もリヌドもなく䞀匹で屋倖をさたよう犬がよくいた。

 「ちゃヌくん、3人集めたよ」。たヌくんが蚀った。「孝ちゃんず䞀緒に降りおこいよ。5人でやれるから」。

 ヒデ坊、シゲたん、たヌくん、孝ちゃん、ペりちゃん、そしお僕の5人が、路䞊にロヌセキで描いたスタヌトラむンに集たった。やるのは短距離のかけっこ、スタヌトラむンに立った少幎たちが「よヌいどん!」の合図で䞀斉に走り出した。その埌、角に来お右に曲がり、さらに電柱たで進み、朚の衚面にタッチしお匕き返し、元スタヌトラむンだったゎヌルラむンたで党力疟走を続けるずいう決たりだった。道路でやる盞撲ず同じように、誰が勝぀のかわからず、おもしろいレヌスだった。

 この道路には子䟛盞手に商売をする男の人たちが䜕人かやっおきた。自転車に乗っおやっおきお、氎风などを買った子䟛らに玙芝居を芋せる人が2人いた。玙芝居は絵札を差し替えながらストヌリヌを話しお䌝える芞である。さらに、トレヌラヌで新粉现工や逅を売りに来る人もいたし、䞭囜でチャヌメンず呌ばれる焌きそば、栃朚颚のゞャガむモ入りのを売りにくる人もいた。

 ただ、そういう商売人たちはすぐに来なくなった。 商売を続けるだけの力がなかったのかもしれない。

 ある日、通りに子䟛が䞀人もいないこずがあった。

 そのせいか僕はリラックスしおいお、そのぞんの家の塀に䜓を預けおのんびりく぀ろいでいた。

 するず、䞀人の少女が珟われ、近づいおきお背䞭からからだを抌し぀けおきた。近所に䜏む小孊生の女の子、あさちゃんだった。なぜかわからなくおびっくりした。

 あさちゃんはたすたす匷くからだを抌し぀けおきた。背䞭の茪郭や、ストレヌトヘアの匂いがわかった。

 やがおこの子は家に戻っおいったが、これほどの驚きは初めおだった。 女子ず男子の関心はたったく違うのじゃないだろうかず思った。


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゚ピ゜ヌド16:枡良瀬川



 枡良瀬川は、䞻芁な山ずしお日光の男䜓山ず矀銬の赀城山の間にある皇海山 (すかいさん)から流れが始たる。足尟の山々の谷を䞋り、桐生ず足利の2぀の倧郜垂を通り抜け、措氎察策ずしお造成された枡良瀬遊氎地に至っお流域を広げ、さらに南䞋し、最終的に利根川に合流する。

 僕たちが䜏んでいた足利垂の通り3䞁目は、川に最も近い䜏宅地の1぀だった。䜏んでいた少幎たちは倏に川に泳ぎに行ったり、ほがすべおの季節に川蟺りで釣りをしたりしお遊んだ。

 僕は氎を恐れるあたり泳ぐこずはしなかったが、氎泳奜きの男の子は倏に䜕時間も氎遊びしお過ごした。

 倏のある日、匟の孝ちゃんず僕で川に釣りに行った。小型の魚のハダを釣るこずを目指した。い぀も釣り䞊げたいず思っおいたのはフナのような倧きな魚だったが、めったにこちらに近づいお来おはくれなかった。二人で砂浜に立ち、゚サの぀いた釣り針を氎䞭に投げ入れた。

 「今日は倧きいのを釣りたいな」ず孝ちゃんが蚀った。

 「そうだね」ず僕は答えた。

 その日、すぐ䞊の兄のダマくんは、枡良瀬橋を越えた砂州に釣りに行っおいた。川を2぀に割るこの砂州には広くおきれいな玔癜の砂浜がある。ダマくんは竹かごのような眠を急流に散らばる小石の間に仕掛けお魚を捕たえる。きっず倧きなえものを持ち垰るだろうず僕たちは思っおいた。

 りキを芋぀めおいる間にヒデ坊が埌ろを通り過ぎようずしおいたこずに気づいた。顔を向けお蚊いた、

 「どのくらい泳いでるんだい?」

 ヒデ坊は「1時間かそこら」ず答えお行っおしたった。

 ヒデ坊は兄さんずいっしょに、川の䞭に飛び蟌んで流れに乗っお泳ぐ遊泳を続けおいた。枡良瀬橋の䞋の護岞から、深くお緑色に近い流れの䞭にザブヌンず飛び蟌み、かっこいいオヌバヌハンドで急な流れを泳ぎきる。飛び蟌んでからしばらくしお岞に䞊がり、歩いお出発点に戻る。川の流れに逆らっお泳ぐこずはしない。流れを䞋る氎泳ぎを楜しんでいた。

 枡良瀬川は冬にはからっ颚が吹きすさぶ颚の通り道に倉わり、新期からの颚が赀城山を含む矀銬の山々を越えおやっお来お、なたじでない寒い冬空をもたらした。しかし、倏の川の呚りは、幞せばかりだった。

 匟たちは獲物なしで家に戻ったが、ダマくんはタナゎを2匹連れお垰った。予想はあたった。


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゚ピ゜ヌド17:芪戚蚪問



 父は矀銬県境町が故郷、母も同じだった。母は父の家の斜め前、50メヌトルも離れおいない堎所に䜏んでいた。父は長井屋本店ずいう菓子屋の3男で、母は道路を枡っお向かいにある内山酒店の長女だった。結婚たで隣人ずしお䜏んでいたこずは驚くべきこずだったが、おかげで芪戚蚪問の手間は倧幅に省けた。

  

 「ハンカチ持った?」ず母が蚊いた。

 「準備オヌケヌだよ」ず僕は蚀った。

 東歊䌊勢厎線の足利垂駅たでは埒歩で玄15分かかった。通り2䞁目の角で右に曲がり、囜鉄䞡毛線の螏切を枡り、橋桁を幅広い屋根ずしお䞭橋の䞋に䜏んでいた人々の倧きな花壇を芋䞋ろした埌、川を枡りきり、駅前広堎に到着し、駅舎に入っお切笊を賌入、チェックむン、䞋り線のプラットフォヌムに䞊がる。

 通林ず䌊勢厎の間の東歊線は単線で、乗客は窓から颚光明媚な田舎のパノラマを楜しむこずができた。母の目的地は足利に隣接する郜垂、倪田垂の駅から4番目の停留所だったので、30分ほど、窓から景色が次々に通り過ぎるのを芋お楜しむ時間を過ごした。

 しばらくしお列車は目指す駅のプラットフォヌムに到着した。

 「着いたわ!」母は蚀った。

 母は座垭から立ち䞊がっお぀り革に぀かたった。

 枡線橋を歩く間に母が少し緊匵しおいるのがわかった。

 母の矩理の兄の嫁はい぀も歓迎しおくれた。昌食に寿叞をずっおくれた。マグロ寿叞は父の奜みのために家では食べたこずがなかったが、その矎味しさに僕は驚いた。母ももちろん同意芋だっただろう。

 敷地の間取りは本店ず支店で非垞によく䌌おおり、店が正面前にあり、次が座敷、続いお奥に工堎、裏庭があった。菓子店経営に郜合のいい構成なのだろう。

 続いお母の実家を蚪れた。巡業䞭の倚くの盞撲取りを泊たらせたこずもある、間取りの倚い酒屋だった。

 ずころで疑問は残っおいる:父ず母は子䟛時代に友だちだったのだろうか?

 ノヌ、そうではなかったず思う。明治時代は男女同垭は蚱されなかった。

 圌らはい぀から互いを知っおいたのだろうか?

 少し幎長になっおからは2人ずも電車通孊しおおり、同じ鉄道線の境町駅でそれぞれ反察方向、母は䌊勢厎垂の䌊勢厎高等女孊校に、父は倪田垂の倪田䞭孊校に向かった。どちらも5幎制の孊校で今でいう䞭高䞀貫の孊校だった。

 小孊校もいっしょだったが、2歳幎が離れおいる。たずえ互いに認識し合っおいたずしおも、出䌚う機䌚はめったになかったし、恋に萜ちるこずもなかったず思う。恋愛結婚を瀺す蚌拠は芋぀からない。僕は芋合い結婚甚に撮圱された写真を芪が持っおいたこずを知っおいる。どのように結婚したかを知るにはそれで十分だった。

 東歊線の駅から垰る途䞭、䞡毛線の螏切を枡る前に母は突然膝を地面に沈たせた。母が転ぶのを芋お僕は驚いた。芪戚蚪問䞭にあたりにも緊匵しおいたのだろうか?


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゚ピ゜ヌド18:路地の行く末



 我が家の西偎の脇に路地があり、垂内䞭心郚の倧通りにたで続いおいた。この路地は幅が1メヌトルほどで狭く、通過する人はほずんどいなかった。

 我が家偎の入り口近くに、隣家のを含めおゎミ箱がやや離れお2぀あり、ある朝、隣家のもののほうにバタ屋のケンちゃん、バタケンちゃんが寝おいたこずがあった。バタけんちゃんはゎミ箱持りが埗意な、䜓栌の良い、汚い服装の人で、い぀も玐付きの空き猶を肩から担ぎ、青いゎミ拟いトングを持っおいた。トングで぀たみ、空き猶に攟り入れる。

 この路地は途䞭、子䟛たちの遊び堎になっおいるバむパスを暪切る。それよりわずか前に路地に面しお鳥光の裏口があった。この店は新築で、スヌパヌより高玚な鶏肉の専門店だったが、あるずき、僕は非垞にショッキングな出来事を目撃した。ケッコケッコず鳎き隒ぐ鶏が店䞻のおじさんに銖をひねられお絞められた埌、おじさんが血をドバッずバケツにぶちたけ、しかも、僕の顔を芋おニタリず笑ったのだ。

 これはき぀い䜓隓だった。鳥のひき肉買っおきおず母から頌たれおも、この店には絶察行かないず、その堎で誓った。

 路地はいったん途切れる。バむパスの道を枡り切るず、たた始たる。少し行くず、巊手の家から出おきたずみられる女の子が、䞀人で立っおいるこずがよくあった。この子は䜕かをするわけでもなく、ただ立っおいお、しかも、こちらをじっず芋぀めおくる。僕は思わず、頭をこ぀んず叩く。しかし、泣かない。いったいどういう子なのか理解できなかった。

 すぐに倪錓をどんどんず叩き、経を䞊げる声が聞こえおくる。日蓮宗のうちがあった。

 最終的には、この道は「倢の屋」ずいう貞本屋に぀ながった。路地から出お右に曲がるず、倧通りに面した貞本屋の店頭だった。孊校の図曞通にはめったに行かなかったが、この貞本屋からは絵本や挫画、日本人のマサルがケニダで掻躍する『少幎ケニダ』の茉った雑誌など、いろいろよく借りた。

 路地を通り過ぎるのはおもしろい。雪茪町の路地は特に、䌑んだ同玚生の絊食のパンを届けるよう担任の先生から頌たれ、よく通っお家たで届けた。春子ちゃんの家も同じ路地にあった。「䞍蚱葷酒入山門」の石碑がある曹掞宗の寺の前から路地に入るず、わくわく胞が螊った。


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゚ピ゜ヌド19:足利の山々



 枡良瀬橋を枡るずすぐに鳥居がある。ここは女浅間ぞの入口だ。山ずはあたりいいにくい、暙高の䜎い䞘あるいは高台なので、䞀気に楜に登れる。頂䞊に䞊がっお芋枡すず川も平野も山もずおも芋晎らしがよい。匟の孝ちゃんや盞撲仲間ずよく遊びに行った。

 暙高玄100メヌトルの男浅間が隣りにある。こちらはちょっずだけ険しい。調べたずころ、もずは1぀の山だったが東歊鉄道の線路を通すために䜎い郚分に切り通しが䜜られ2぀に分けられたようだ。

 男浅間に次兄ず䞀緒に行ったこずがあった。この兄は冒険䞻矩的行動䞻矩の人で掻動的、どぶさらいや釣りなどの氎回りもよくこなした。だから僕にずっおはあたり付き合いよくはなく、匟ず遊ぶこずのほうが倚かった。

 萜ちおいた朚の枝を拟い、それを振り回し぀぀、迫っおくる朚の枝を払いながら、2人で山道を進んだ。しかし、颚が䞊でなく匷くヒュヌヒュヌ唞り、それだけで僕は䞍安な気持ちになった。束の朚の高い梢が揺らぐのを芋るず、どこか知れない山奥に迷い蟌んだような気分になり、そのためしばらくしたら「垰りたい、垰りたいよ」ず泣き蚀を蚀った。

 「だめだめ。来たばかりじゃないか」

 兄は匷い颚に吹かれおも平気だったのだ。しかし、なおも進むうちに「しよヌがねヌなヌ。垰るか」ず蚱しが出た。

 足利には䜎山がけっこうある。枡良瀬川の措氎察策䞊のネックず蚀われおいる岩井山は、枡良瀬川を迂回させるような圢に突き出おいる暙高50メヌトルの䜎山で、戊囜時代には芋匵り台ずしお重芁な䜍眮を占めおいたのではないだろうかず思わせるような堎所である。

 䜎山でも重芁な山ずしお氎道山がある。これは垂内䞭心郚に䜍眮する、浅間山ず同じくらいの暙高の山で叀墳があり、垂内に氎道を䟛絊する斜蚭もある。垂民の氎道氎は枡良瀬川で取氎され、この斜蚭で浄化される。氎源は皇海山(すかいさん)。きれいな氎に違いない。足利公園ずされおいお、もっずあずの話を先取りしお蚀うず、私達が結婚匏の披露宎をした蓮岱通がある。

 浅間山から道を戻っお枡良瀬橋を枡り、ほがたっすぐ北䞊するず織姫山に至る。西隣りが機神山で、どちらも山頂に神瀟がある。

 織姫神瀟の暪道からさらに向こうの䞡厖山に至る尟根は珟圚は人通りの倚いハむキングコヌスになっおいるが、昭和の昔には歩いおいるのは僕たちこどもくらいで、あたりおずなには出䌚わなかった。この尟根は䞊り䞋りの起䌏が快い感じでしばらく続く。ずきどき露岩があり、方解石のようなものが付いおいたり衚面が鏡のようになめらかだったりしおおもしろい。さらには倧岩山から行道山に至るが、道順がやや耇雑になるため、それほどたでの奥には行きにくかった。

 ある日、長兄が僕に蚀った。「行道山にハむキングに行かないか?」

 「面癜そうだね。行こう、行こう」

 織姫山から尟根䌝いに行くのかず思い、「織姫山から行くの?」ず蚊いた。

 「いや、そうじゃない。バスで倧岩山の麓の毘沙門倩門山門たで行く。倧岩山に登っおから行道山に行くんだ」。

 長兄は谷川岳や八ヶ岳に登山するいわばセミプロだった。だから僕はたったく兄を信頌しおいた。

 翌朝、長兄ず匟ず僕の3人で通り3䞁目のバス停からバスに乗り、倧岩山を目指した。バスで15分くらいで着いた。圓時の垂内はバスがけっこう走っおいた。

 倧岩山の山門には阿吜の仁王像が巊右に䞊んでいる。この仁王像を眺めた埌、山道を登っおいくず暙高417メヌトルの山頂に至る。しかし、それより前に最勝寺のあたりで、こちらに行くず行道山に至る巻き道、぀たりバむパスですず知らせる暙識がある。

 「よし、着いた。ここでどっちに行くか遞ぶんだ。ひず぀は急な登り道、もうひず぀は迂回路、迂回路のほうが簡単に頂䞊たで行ける」ず兄が蚀った。

 もちろん我々は楜な方を遞んだ。孝ちゃんもがんばっお兄たちの埌を远っおきた。途侭、おそらくモズずみられる鳥がギャヌギャヌず鳎いた。

 「うるさいね、あの鳥」ず孝ちゃんが蚀った。

 「たぶんモズだな。モズはギャヌギャヌ鳎くこずもあるし、ほかの鳥のモノマネもうたいんだよ」ず兄。

 次第に深山らしくなっおいくのを楜しむうちに、枓流がある頂䞊に着いた。行道山はこれたでの䜎山ずはたったく趣が異なる心が掗われる宗教サむトのように感じられた。浄因寺本堂ず茶宀の枅心亭を結んで断厖の䞊を枡る倩空の架け橋は、北斎の絵ず同じくらい芋ごたえがあった。

 山頂でのおにぎりはおいしかった。枓流にサワガニを芋぀けた。冷たい氎がほおった足に気持ちよかった。楜しい1日になった。


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゚ピ゜ヌド20: 青山医院



 青山医院は倧通りを越えた、雪茪町の隣りの巎町にあった。行くずきは母ず䞀緒だったが、颚邪で熱が出おいるずきが倚く、歩くのがだるかった。

 車寄せから医院に入るず、すぐに玄関の土間で、巊右に揺れる振り子がある、正面の倧きな掛け時蚈に向かうこずになる。靎を脱いで䞊がるず右手が埅合宀で、そこで順番埅ちする。畳敷きのふ぀うの座敷だ。

 冬の寒い日には火鉢に炭が入れられおいお暖かったが、ほかに暖房はなかった。倏も同様で冷房はなく、扇颚機があるだけだった。

 順番が来るず看護婊さんが呌びに来る。立掟に手入れされた、池のある和颚の庭に面した廊䞋から匕手のガラス戞を開けお巊手の蚺察宀に入るず、倧きなデスクに座った青山医垫、奥さん、看護婊さんに出迎えられる。

 「今日はどうしたん」ず医垫が蚊く。

 「熱があっお䞋がらないんですけど」ず母が答える。

 看護婊さんの指瀺によっおデスクの反察偎の怅子に座ったずたん、怅子から立ち䞊がった医垫が寄っおきお「はい、あヌんしお」ず蚀っおくる。口を開けるず先端に鏡の付いた医療噚具を突っ蟌たれ、「あけヌや」ず蚀われる。

 これはべらんめえ調で「赀いや」のこずだ。

 たちたちペヌドかルゎヌルのようなものが浞された綿棒の芪分のような噚具がのどに突っ蟌たれる。医垫はこれで喉をかき回す。

 すぐにりェヌっずなる。しかしだ、

 しかも2床やられる。

 拷問だ。

 おなかの調子が悪くお蚪れたずきには、蚺察した医垫のべらんめえが「はっおらヌ」ずなり、お尻をむき出しにされお看護婊さんから浣腞され、出たくなっおもしばらくがたんしおくださいず蚀われる。病気だからしかたない。

 薬局が玄関ホヌル脇にあり、垰り際の蚺療費支払時に小窓から薬が出る。颚邪のずきにはきたっお飲み薬ず粉薬の䞡方が出た。飲み薬はコヌラのような味で粉薬よりはおいしかった。粉薬は癜い玙を折り玙のように折った包みに入れられおいたが、おいしくない。

 颚邪で孊校に行かず、寝おいるずきには、すったりんごやバナナを食べるこずができた。これは特別なこずだった。特にバナナは父がきらっおいお、ふだんめったに食べられなかった。

 ずころで、ある時、孝ちゃんが熱を出しお顔が真っ赀になったこずがあった。父が青山先生に電話し、埀蚺を䟝頌した。医垫は快く応じ、蚺察かばんを䞋げおやっお来た。このずき豪邞のある城から出お商人の家に埀蚺のために蚪れ、すっかり勝手が違ったからなのか、鬌の先生がべらんめえ調ではなくなり、あたり怖くもなかった。

 垰り際に県鏡がないず蚀っおあちこち探したが、額の䞊にそれがあるこずは、本人以倖のだれもが知っおいた。

 「先生、県鏡はそこに」ず母が指差しながら蚀った。

 気づいた医垫も含めお、どっず笑いが起きた。

 「いや、忘れおた」ず医垫は照れた。

 孝ちゃんは快方に向かった。


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゚ピ゜ヌド21: 床屋



 母に床屋に行くように蚀われるず隣の隣の床屋に行った。順番埅ちの人は倚くはなく、楜にヘアカットできた。

 女性の理髪垫であるツルチャンは䞡芪の嚘だったが、めったに理髪するこずはなかった。「先生」ず呌ばれる圌女の倫らしき人が、ほずんどすべおの客に察応した。

 先生はベストを尜くし、子䟛の客に察しおもヘアカット、シャンプヌ、ひげ剃りのフルコヌスで臚んだ。

 この先生はい぀も、䜕も蚀わずに自分の道を歩んだ。かなり倪めの䜓぀きで、い぀も癜衣を身に぀けおいた。時々「ムフ」ず蚀う。これは䜕か良いものに気づいたずきの兆候だったらしい。

 髪をシャンプヌしおドラむダヌで也燥させるず、先生は店の脇に吊るしおある研ぎ革でかみそりを研いだ。これをするずきは楜しそうに芋えた。そしお圌の仕事が始たる。

 子どもなので、剃られるべき毛は眉毛を陀いお顔にほずんどなかった。出お来そうな毛も僕の顔にはなかった。おそらく顔を剃る必芁はなかった。

 しかし、先生は続けた。圌は「ムフ」ず蚀い、指で僕の唇を぀たみ、かみそりを圓おやすくする。僕は目を閉じお寝おいるふりをする。「ムフ」ず圌は蚀い、僕の唇を指でいじる。唇を぀たんでいじくり回されるのはあんがい気持ちがよかった。よく研がれたかみそりの刃もやっおきお、時は氞遠だった。

 こういうわけで僕は床屋は嫌いではなかった。


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゚ピ゜ヌド22: あたり䞀面真黄色



11月になるず、垂圹所のたわりの銀杏の暹から金色の小さき圢の鳥が次々に舞い降り、あたり䞀面の歩道に積もった。螏みしめるずざわざわず鳎った。  䞀人で䞋校するずき、金色の回廊をこちらにやっおくる女の悪童どもに出䌚った。ただひらひら舞っおくるいちょうの葉もちらほらあった。

 ほんずうは道の向こう偎の消防眲に行っお、ぎかぎかの赀ず金のどでかい車䞡を眺めたかったのだが、悪童どもが目に入ったので、たっすぐ進んだ。

 「コロッケは沢田さんじゃないず笑わないんだよね」ず少女のうちの䞀人が囃し立おた。

 コロッケはあだなだった。校舎の反察偎にある新井粟肉店のお兄さんに塀の穎から手を振るず、道路を枡っお玙の袋に入ったコロッケを届けおくれた。これは絊食がないずきの䞊玚生の代々の䌝統的な技だったが、階䞋の2幎生に目撃されおおり、今日もコロッケ明日もコロッケずいうこずで、あだなが぀いた。

 少女の問いかけには䜕も返事はしなかった。い぀ものずおり基本的に緘黙を通した。このずき䞡者は玠通りしたが、春子ちゃんには笑顔を向けたかもしれない。

 階䞋の2幎生のクラスには掃陀の準備ができおいるかどうかをチェックする係ずしおよく行っおいた。2幎生は自ら掃陀はしなかった。䞊の階の5幎生が掃陀をした。しかし、机を教宀の埌ろの方に寄せお掃陀のための準備をするのは2幎生だった。

 チェックしに行くず、時間によっおは生埒がただたくさん残っおいお、「コロッケが来た」ず蚀っお倧隒ぎになるこずもあった。

 しかし、こちらは春子ちゃんしか芋えなかった。黒板に「よくできたした」ず曞いお、急いで垰った。


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゚ピ゜ヌド23: 秘密



 隣の隣の床屋はグヌグルで芋る限り今はもうないようだ。昔々の圓時は、䜙蚈なおせっかいながら家族構成の点でなぞがあるように思われた。ツルちゃんは嚘で、ツルちゃんの芪はたぶん、この家のおばあちゃんで、店の裏の家に䜏んでいる人だった。床屋の男の先生はもしかしたらツルちゃんの倫なのかもしれない。しかし、二人の間に子どもはいないようだった。

 「けいくんはね、実は貰い子なんだよ」ず母があるずき蚀った。

 「ああ、けいくんね」

 なんずなくわかったようでわからない話がはじたった。床屋には子どもが生たれたずいう話はなく、あるずきから急にけいくんずいう男の子ができお、その子ずは遊びにくかった。

 「ツルちゃんず先生の逊子で、逊護院から匕き取られたんだ」ず母。

 「顔぀きがちょっず日本人ばなれしおいるね」

 「それはどうかわからないけど、実は前のうちに実のお兄さんがいるんだ。でも、そのこずに぀いおは兄匟同士でわかっおいないんだっお」ず母。

 このお兄さんに぀いおは、ちらっず芋たこずがあった。店番おじさんの店の奥に確かにいたこずがあった。

 「でもさ、小孊生だし、実の兄さんなら盎感でわかるずいうか、ずにかく芋ればすぐにわかるんじゃない?」ず母に蚊いた。

 「そうかもしれない。でも、意倖ず接点がないんだね。こんな近くなのに」

 「芪はどうしちゃったの?」

 「砎産しお心䞭したそうだ」

 「砎産、心䞭?」

 「砎産は぀ぶれるっおいうこず。心䞭はいっしょに死ぬこずだよ」

 「そういうこずがあるんだ」

 「うん、ある」

 「子どもは生き延びたんだね?」

 「そういうこず」

 「かわいそうな話だね」

 「そうだよ。でもツルちゃんはずっおもいい子でね、自分に子どもが出来なくおも、逊子を取っお育おたいっおいうんだね」

 「よくわからないけど」

 それならそれでいいんじゃないず僕は思った。

 「なかよくしおあげおね」

 急になんおむずかしいず僕は思った。


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゚ピ゜ヌド24: 母の病気



 圓時の日本では氎掗トむレを芋぀けるのは難しかった。人々は至るずころで竪穎匏䟿所を䜿っおいた。原始的で野蛮なトむレながら、斜蚭蚭眮の費甚もあたりかからず、簡単に䜜るこずができ、ふん尿を発酵させお肥料ずしお利甚する蟲家もあり、しかも、その臭いから病気がわかるずいうメリットもあった。

 父は小柄で痩せ型だったが、母はかなり倧柄な女性だった。そのため、䟿所の汲み取り䜜業をする人が父に察しお「今集めたものは甘酞っぱい匂いがしたから、家族の誰かが糖尿病にかかっおいるに違いない」ず蚀うず、父はただちに母に医者に蚺おもらうよう勧めた。

 青山先生の蚺察を受けおから母は米を食べなくなり、食パン1枚を䜕も぀けずに食べるようになった。

 「パンは飜きない?」トヌストしたパンをバタヌもゞャムも぀けずに食べる母を芋お、僕は尋ねた。

 「たあね。でも、がたんしないずたいぞんなこずになるから」

 「お医者さんによるず、本圓の糖尿病ではないけど、血糖倀が通垞よりもかなり高いっお蚀っおたわ。 米を食べなくおも死ぬこずはない。 お米を食べるのをやめなさい」っお。

 米断ちパン食の日々が数か月続いた。1人だけ哀れだなぁずいう気持ちはした。

 ずころが、次第次第によくなっおいき、汲み取り屋さんも䜕も蚀わず、医者もパン食を勧めなくなった日が぀いにはやっおきた。病気が克服された。それは玠晎らしいこずだった。

 埌日、近所の医院でバむトをしおいる東京の医倧病院の医局員の先生に、たたたたこの話をした。

 「いや、パンもけっこう糖分が倚いんですよ」ず先生は蚀った。

 調べたずころ、ご飯茶碗1杯ず食パン1枚はだいたい同じ皋床で200Kカロリヌくらいだが、ややパンのほうがカロリヌが少ないようだった。

 いずれにせよ、母からは、やらなければならないこずは完党にやらなければならないずいうこずを教えられた。


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゚ピ゜ヌド25: 出䌚い



 空がすばらしく青い秋の日の午埌だった。街路暹の銀杏が昚日は花ざかりかず芋玛がうかのようだったが、朝から無数の葉を萜ずし、歩道は真っ黄いの色䞀色に染めあがっおいた。

 爪先から運動靎を突っ蟌たせ、萜ち葉の薄い堆積を蹎散らしながら、がさごそず音をたお぀぀歩き぀づけるず、めざす消防眲の建物たで5分ずかからない。校門をあずにしたばかりなのに消防眲は目ず錻の先のずころにあった。ガ゜リンのよいにおいがただよっおいお、消防車のおめかしが枈んでいるのがわかる。あけはなしの䞀階の正面前からは、ポンプ車やはしご車が車䜓を真っ赀に光らせ、錻づらを誇らしげに䞊べおいるのが芋えた。

 教宀なら䞉぀四぀は入りそうなほどの広い空間だった。コンクリヌトの床は黒く濡れおいた。タむル匵りの壁の䞀方にきっちりず巻かれたホヌスがフックから掛かっおいお、その脇には長い柄のモップが立お掛けられおいる。人かげはなく、あたりは静かすぎるほど静かだった。

 「入っおしたおうか」ず思った。

 足䞋に目を萜ずすず、建物のコンクリヌトの床ず歩道の敷石の境をしきる、か现い排氎溝に運動靎の爪先が掛かっおいた。

 たいぞんなのは最初の䞀歩だけ。䞀歩螏み蟌めばいいんだ。足がうずうずした。

 そのずき「コロッケヌ、コロッケヌ!」ずあだ名で呌ぶ声がした。消防眲のたむかいの垂圹所のあたりから声がし、通りを越えお䞀人芝居に倢䞭だったずころたでたっすぐに届いた。

 あの子たちだ。階䞋の2幎生の女の子たちがたたたむろしおいる。あの子もいるのかな。

 ずたんに心の䞭でうろたえはじめた。溝の運動靎から目を䞊げ、胞をどきどきさせながら䞊朚通りの向こうに顔を振り向けた。瞬間、目を瞑ったのは歩道の銀杏の金色がたぶしかったからだった。

 たむろしおいたのは党郚で五、六人だろうか、めいめいがおんでんばらばらに䜕かしらしお動くので、ひどく芋分けにくい。手に持った袋からお菓子を取り出しお食べる䞀人がいれば、くっ぀いお話す二人もいる。うしろの方には庁舎の鉄柵に寄りかかっお今にも歩道に腰を萜ずしそうな子もいる。あっちこっちうろ぀く子もいる。たぶしさのために、ずもするず党䜓が䞀぀のかたたりにしか芋えなくなる。どこかですでに遊んできた垰りなのか、それずも、これから孊校の校庭に遊びにいくずころなのかわからないが、この女の子たちはずにかく勝手気たたでのんびりしおいる。

               
 いないのかなぁ? ふだん少女ずいっしょにいるこずの倚い、ひょうきんそうな女の子の顔しかわからなかった。

 ありえないこずじゃないけれどもめったにないこずだったので、にっこりしおしたった。最初に気づいたずきには、たるで幻かなにかのようだった。ふいにふわヌっず出おきた。あそこの電柱のかげから。

 淡いピンクのセヌタヌを着おいた。長い髪が颚になぶられお舞う。䜕も芋おいないかのようなたなざしが乱れ髪のかげに隠れた。近づいたずき、䞀瞬、芖線をそらした。すれちがうずきにはしっかり目を芋た。思わずにっこりした。向こうもちらっずにっこりしたように芋えた。


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゚ピ゜ヌド26: マヌくん



 マヌくんは顔面に障害があった。マヌくんの家に遊びに行ったある日、若くお矎人のお母さんが䞊がっおず蚀うので䞊がった。そのずき、お母さんがマヌくんを膝の䞊に抱えお牛乳を飲たせ、続いおマヌくんが泣いたのを目撃した。マヌくんは飲んだ牛乳を錻から戻した。

 ぀たり、飲んだものを胃に収められず、錻の方に逆流させた。ずなれば、もちろん蟛く痛いに違いない。だから泣いた。お母さんはその様子を僕に芋せたかったのかもしれない。

 マヌくんのお父さんはりルフのような恐い顔付きの人で、衚に面した1階の座敷の片隅に眮いた机が仕事堎、そこにに座っお䜕かを埅぀ようだった。商売道具ずいえばダむダル匏の黒電話機1぀のみで、それで䞀家を支えおきた。

 マヌくんの䞀家はおそらく関西のどこかから、この土地に新築した家に匕っ越しおきたのだず思う。マヌくんには匟がいお、たかちゃんず䞀緒によく4人で遊んだ。お父さんの執務宀の隣に神頌みのための小型の瀟があり、その屋根の䞊に登っお竹補の杉の実でっぜうで「パンパン」ず蚀いながら撃ち合いをしおもお父さんは怒らなかった。

 家の前の路䞊にはよく盞撲の土俵やビヌ玉はじき、ぺったんのサヌクルがろヌせきでこしらえられお、子䟛たちがわいわいうるさくしたのにりルフ氏はそれでも怒らなかった。ビヌ玉はじきは他のメンバヌのビヌ玉をサヌクルからはじき出しお手に入れるゲヌム、ぺったんはめんこず呌ばれる絵札を裏返しお手に入れるゲヌムだった。

 幞せな生掻を送っおいるようだったが、䞀家はその埌2床倧きな䞍幞に芋舞われた。1回目は皎務眲による差し抌さえだった。たたたた目撃したのだが、ある日、係官がやっお来お立掟な箪笥や戞棚、テヌブル、怅子などにぺたぺたず「差し抌さえ」ず衚瀺された赀玙を貌り付け、トラックで運び去っおいった。

 2回目の出来事はもっずひどかった。胆石になったお母さんが入院しお手術したのだが、手術が倱敗に終わり急に亡くなったず聞かされた。  やがお䞀家はどこかに匕っ越しお行っおしたった。


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゚ピ゜ヌド27: チビのお墓



 ある日、マヌくんず、マヌくんの幌皚園の友だちのみかちゃんずいっしょに遊びに行くこずになった。僕はずっず気になっおいたチビに䌚いたかった。

 「チビのお墓に行かないか」僕は二人に蚊いた。

 「チビっおだヌれ?」ずマヌくんが蚊いた。

 「だいぶ前に死んだうちのネコだよ」ず僕は答えた。

 「ふヌん」ずマヌくんずみかちゃんが蚀った。

 「お釜の䞭に萜ちお溺れたんだ」

 「えぇヌ」ずマヌくんずみかちゃん。

 「かわいそうだったけど、父さんがお墓に埋めた」

 「よくわかんないけどかわいそう」ずみかちゃん。

 「もう死んでいるんだ」ずマヌくん。

 「行っおみよう」

 みかちゃんの家の近くの排萜た䜎朚の倚い䞀画を通り過ぎ、僕たちは川原の土手の氎䜍芳枬所のずころに出た。

 「土手を䞋ったたんなかぞんにお墓がある。぀いお来お」ず僕は2人に蚀った。

 土手を䞋っおいくず、土がわずかに盛り䞊がっおいる所があり、たんぜぜが぀咲いおいた。

 「ここだよ」ず僕は蚀った。思い出すず自然に涙が出おきた。「チビはちっちゃい灰色のネコだった」。

 ほかの二人の目からも倧粒の涙が萜ちた。

 「もう行こうか」ずいうマヌくんの合図で僕たちは土手を䞊がった。

 氎䜍芳枬所の巊の土手を䞊り、たた䞋るず鉄条網があった。僕は飛び越えに倱敗し、ふくらはぎに鉄針が刺さった。

 「痛おヌ!」ずわめいた。

 血がどくどく出た。これはたいぞんだず思った。

 みかちゃんがハンカチを出した。傷口に圓おるように蚀った。痛かったから蚀われるずおりにした。

 家に垰っおから母に説明した。

 マヌくんの友達のみかちゃんず蚀うず、母は誰のこずかすぐにわかった。ハンカチは母が掗っおみかちゃんのお母さんに矊矹ずずもに返した。


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゚ピ゜ヌド28:玍豆かたんじゅうか



 冬が来るず、寒い早朝に玍豆売りのおばさんが通りを売り歩いた。「なっず、なっずヌ」ず声を䞊げながら西からやっおきお東に向かう。

 玍豆は朝の食卓にいろどりを添える。したがっお朝に売れる。江戞時代からずっず、家の䞭から通りに駆け出しお「おばさん、ちょっず埅っお。玍豆1぀ちょうだい」ず買い求める人々がたくさんいた。

 おばさんの玍豆は我が家もよく買い求めた。経朚の薄皮に包たれた、厚みのある䞉角のものを開くず、よくできた、匵りのある倧粒の玍豆が䞊んでいる。箞で少量をすくい取り、茶碗の䞭のごはんに茉せお蟛子ず青のりをたぶしおかき混ぜ、数滎醀油を垂らしお䞀気に掻き蟌むずおいしい。

 経朚は、タケノコの「ひげっかわ」から進化した包装材で、その実䜓は薄い朚の皮だが、きれいなため玍豆にも和菓子にも䌌合う。

 ある朝のこず、店先に入っおきたおばさんが店番の母ず亀枉した。

 「このたんじゅう1個ず玍豆1個、亀換しおくれない?」

 ショヌケヌスの䞭のねがけたんじゅうず玍豆ずの物々亀換をおばさんは提案した。䞡者比べるず玍豆のほうがはるかに栄逊䟡が高く、たんじゅうは足元にも及ばないず思われるのだが、女性ならあんこの甘さのほうをずるかもしれない。

 おばさんの申し出に母は即答した。

 「いいですよ。亀換ね」

 朝の食卓に玍豆が欲しかったのだ。

 「よかった。おたくのたんじゅう、い぀も暪目で芋おいたんだ」ずおばさん。

 「ねがけたんじゅう1個10円、玍豆1個10円、わかりやすいね。はいどうぞ」母は小皿に乗せお差し出した。

 「私ね、実は新聞を着おいるんだ」ずおばさんが問わず語りに蚀った。「あったかいよ」

 「ぞヌ、新聞玙をね」母は急遜お茶も差し出した。

 「ありがずございたす」おばさんは感激した。

 「新聞玙は子䟛の匁圓を包んだり、いろいろず圹に立぀んだよね。からだにはどうやっお巻くんだい?」ず母は蚊いた。

 「新聞はね、貧乏人のコヌトだよ。普通に肌着の䞋にくぐらせるんだ。巻くず蚀うより着る、身に぀けるんだね」

 「なるほど。で、どれほどあったかいの?」

 「そりゃもうポカポカ、歩くずもっずあったたる。たんじゅうおいしい、お茶もおしかった。元気が出た」

 「それはよかった。もしよかったら明日もたた来おね」

 おばさんは通りに出お玍豆売りに戻った。「なっず、なっずヌ」の声がちょっず倉わったようだった。

 母から受け取ったのは、ずっしりずした経朚包みだった。

 「おばさん、チラチラ栗たんのほうを芋おたよ」

 「そうか。でも玍豆のほうがおいしいよね」

 「そうそう、たんじゅうより玍豆」ず母は同意した。


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゚ピ゜ヌド29:驚いお党力疟走



 倏の倕暮れ時、匟の孝ちゃんずいっしょに倧通りの倜店に出かけるこずになった。倜店はだいたい3䞁目の郵䟿局前から通り2䞁目の方に向かっお、最もにぎやかで明るい通りの䞡偎の歩道に出た。屋台で焌きそばやたこ焌き、お奜み焌きを提䟛する定番の食べ物の店、冷たいアむスクリヌムやラムネを売る店、射的や茪投げ、金魚すくいのゲヌムの店、氎鉄砲やボンボンを売る店などが所狭しず立ち䞊び、倧勢の人々が倕涌みを兌ねお垂内の至るずころからやっおくる。照明甚のアセチレンガスの独特な匂いがただよい、いらっしゃい、いらっしゃいのかけ声が響く。

 匟の孝ちゃんず僕は金魚すくいをやる予定だった。薄い玙を匵ったおもちゃのすくいで金魚をすくい取るず、獲物ずしおもらえる。玙は砎れやすく、たくさんすくうのは難しい。

 僕たちはそれぞれ10円玉を甚意しおポケットに入れおいた。ペコちゃんの䞍二家ず寿叞屋の亀鶎がある角を巊折しお、さお倧通りに向かおうずしたすぐのずころで倕闇の䞭から䞍意に男の倧人が1人ぬっず姿を珟した。

 その容貌を芋たずたん、孝ちゃんも僕もびっくりしお「わヌ」ず叫び、Uタヌンしお党力疟走、なんずか逃げ垰った。あずを远いかけられおいるのではないかず思うず背筋がぞっずするほど怖かった。

 二人で瀺し合わせおそうなったわけではなかった。䞡方がそれぞれ自発的に逃げたのだ。だからほんもののホラヌだったこずに間違いはない。

 「どうしたんだ、二人ずも?」店番しおいお出迎えた父があきれお蚊いた。

 「おばけが.... おばけ...」ず心臓をドキドキさせ、息を切らせながらやっず答えた。

 ずにかく家の奥たで入り蟌んだ。

 「いったいどういう人だったのだろう?」少し萜ち着いおから考えた。

 目が血走っおいたわけでもない。䞍気味な笑みを浮かべおいたわけでもない。嚁嚇する衚情だったわけでもない。ただただ、雰囲気が恐怖をもたらすものだったのだ。たずえばフランケンシュタむンの怪物ずか、そこはかずなく怖がらせる、そういう感じの人は実際にいるのだなず思った。

 「行ったず思ったら戻っおきた。いったい䜕があったんだ?」のちになっお父芪が蚊いた。

 「あのね、角を曲がったずころで男の人に出䌚ったんだ。顔぀きを芋お逃げた」

 「䜕かされたわけじゃないんだね」

 「うん。でも孝ちゃんも同時に走り出したんだから、かなり怖かった」

 「倜店はやめだね?」

 「うん、もういい」

 「倜は恐いよ」ず孝ちゃんも蚀った。


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 「明日、この4人で桐生ず倧間々ぞ遠足に行かないか?」

 ある土曜日の午埌、圓番で教宀掃陀をしおいたずき、ミツが利䞀、誠、僕の3人に蚀った。

 「倧間々は行ったこずはないけど、芳光客がたくさん来るきれいなずころだそうだね」ず利䞀が怅子を運びながら蚀った。

 「家族で桐生の岡公園に䞀床行ったこずがあるよ」ず誠はほうきで床を掃きながら蚀った。

 すぐに䜕か蚀わなければず思ったが、僕はい぀ものように䜕も蚀えなかった。目的地がどこにあるのか、どうやっお行くのかわからなかった。

 「倧間々を通っお枡良瀬川の䞊流のきれいな谷が流れおいる。倧間間は桐生に近い、桐生から電車で20分くらいだよ」ずミツはたるで昚晩調べたかのように、教壇の䞊から僕たちを芋䞋ろしお蚀った。

 男子4人に限られた、この遠足は面癜そうだった。ミツがリヌダヌ圹を務めおくれそうだった。

 「わかった、䞀緒にいこう」ず぀いに僕は蚀った。

 「じゃあ、明日時に足利駅前に集合。 運賃は5円玉4枚か10円玉2枚を忘れずに。お昌に食べるものも持っおくるんだよ」。

 家に垰っお母に旅行の蚈画を話した。「いいじゃない。行きなさい。おにぎり匁圓を䜜っおあげる」。

 翌朝、匁圓ず氎筒を持っお䞡毛線の足利駅に向かった。駅前の広堎の片隅に集たっおみんなが挚拶を亀わした。リヌダヌ栌のミツが䞀人ひずりから運賃を城収し、切笊を買った。 倧工の息子の圌は身䜓が屈匷で、玠早い運動に長けおいた。行動力もあり走るのも速かった。

 列車はそれほど混んでなかった。僕たちは座垭でく぀ろいだ。発車しお間もなく、以前に通っおいた幌皚園の前を通り過ぎた。倧きな砂堎ずビワの朚が目に飛び蟌んできた。桐生駅には20分ほどで着いた。駅ではたくさんの人が降りた。線路の向こう偎に足尟線のホヌムがあった。

 「あっちだ!」ず誠が北を指さした。

 「そうだ!行こう」。

 岡公園には数匹のダギがいた。サルやりサギなどの動物も芋たかったが、急いで動物たちを埌にし、本日のメむンの目的地に向かった。

 「あず5分で倧間々行きの列車が出る。駅たで走ろう」ミツが父芪から借りた腕時蚈を芋ながら蚀った。

 駅に着くずミツが切笊を4枚買い、僕たちはホヌムに移動した。列車の出発を告げるベルがすでに鳎っおいた。僕たちが乗り蟌むずすぐに列車は走り出した。

 車窓からの景色は䞀倉した。今「わたらせ枓谷鐵道」ず呌ばれおいるずおり、汜車は曲がりくねった枓谷沿いを走る。僕たちは山䞭の枓谷を芋䞋ろしながら颚景に興奮した。

 「䞊流がこんな颚になっおいるなんお! すごくあたりがきれいだ」ず利䞀が蚀った。

 「別䞖界にいるみたいだね」ずミツ。

 倧間々駅で電車を降りお間もなく、僕たちはながめ公園にやっお来た。枡良瀬川の枓谷たで降りるず、小石が散らばる柄んだ氎の䞭を小さな魚が泳ぎたわるのが芋えた。

 公園の片隅にあったコンクリヌトのテヌブルずベンチでピクニックが始たった。

 「お匁圓を持っおくるのを忘れちゃった」ず理䞀が情けない声で蚀った。

 「おにぎり4個持っおきたから、1人1個は食べられるよ」。

 「ありがずう。1぀もらうね」

 「お母さんは料理が䞊手なんだね」ずミツが聞いおきた。

 「いや、そうでもない」ず僕は蚀った。「父は菓子屋だけに料理がうたい。そばずか倩ぷら、トンカツ、コロッケなんかはなかなかのものをたたに䜜るこずがある。でも母は料理は苊手なほうだよ」。堎の雰囲気に負けおさらにこう続けた。

 「ある朝、食卓の寂しさに぀いおうっかり文句を蚀いたくっおいたらしいんだ。そうしたら芪父が怒っおいきなり卓袱台をひっくり返した」

 「もう茶碗やらお怀やら箞やら皿やらめちゃくちゃになった。䜕も食べられなくなった」

 「そんなこずもあるさ」ずミツは蚀った。「でも、話そうず思えば、きみも話ができるんだね」

 「家の䞭ではしゃべれる。けど孊校ではしゃべれない」

 「どうしお?どこにいおも自分は自分だけど」ずミツは蚀った。

 どうしおなのか自分ではわからなかった。誠が撮った写真を芋るず、ひょっずこ顔になっおいる。そんな顔぀きをするわけもわからなかった。


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゚ピ゜ヌド31 䞀芞に秀でる



 勝ちゃんは指盞撲ず腕盞撲は誰にも負けない。

 「勝ちゃん、指盞撲やろう」ず蚀いながら近づくず、机に肘を付いお芪指を立おお、すぐに態勢を敎える。

 こちらは机の列の間で䞭腰になり、肘を付いお䞡者4本指同士を組み合わせる。

 「よヌいドン」

 組んだ4本指に力が入り、始たり始たり! ぎんず立った芪指同士を二人でじりじり動き回わす。しかし、1分もたない。

 「いちにさんし、ごろくしちはち、きゅうじゅう」

 フォヌルダりン負け。勝ちゃんは負けない。

 勝ちゃんは障碍のためか萜ち着きずいうものがない。じっずしおいるのが苊手で、唇の間から舌先を出す癖がある。でも、柔道でもやっおいそうな䜓栌の良さで、腕盞撲もめっぜう匷い。黒板前の教卓を土俵にしお取り組むや、すぐさた手銖をひねられ、抌さえ぀けられ、こおんず負けた。

 障碍のある生埒は、ほかのクラスにもいた。い぀もニコニコしお幞せそうな顔をしおいる前野くんだ。

 ある日の昌䌑みの時間、昇降口近くの校庭でみんながのんびずく぀ろいでいた。女の子たちは瞄跳びをしお遊んでいた。そんな様子を脇からちらちら芋おいたずきだった。

 「わヌ、逃げろ、逃げろ、やばいぞ」ずミツがわめいた。

 前野くんが透明な氎のような液䜓を信じられないほど空高く飛ばし、キラキラ茝かせた。たるで消防ホヌスで飛ばしたかのような勢いがあった。

 女の子たちは「キャヌ」ず叫びながら逃げたどう。濡れたらたいぞんなこずになる。

 「ははははっ」

 犯人は高笑いだった。

 この液䜓は股間から飛ばされたのだった。小䟿小僧はホヌスを぀たんでノズルを指で抌さえ、そうするこずによっお勢いを぀け、空高く飛ばした。きっず我慢に我慢を重ねお満タンを超えそうになるたで埅っおいたに違いない。氎は攟物線を描き、きらめいお飛び、同玚生を慌おさせた。

 これは緎習しなければできないのじゃないか? であっおも、すごい技だず感心させられた。


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゚ピ゜ヌド32 共益䌚通



 我が家から少し東寄りの通りの角のずころに共益䌚通ずいう掋通がある。明治あるいは倧正の時代に建おられたものらしく、倖芳はややモダンな感じがする。1階に寿叞屋ず掋品店のアりトレットが入り、階に倧きな座敷の間、3階にダンスホヌルがある。このダンスホヌルは毎晩窓から赀やブルヌの照明をあたり䞀面に撒き散らし、レコヌドでのダンス音楜を流したくった。

 「最近は毎晩だね。音楜は軜快な感じで悪くはないんだけど、照明がいかがわしいんだよね」。

 「たったく。倜遅くたでピカピカしおいお倧迷惑」ず母。

 ダンスを奜む誰がここたでやっお来るのかはわからない。芋たこずがなかった。

 近郊の倧泉に米囜駐留軍の基地があり、兵士がゞヌプに乗っおやっお来るのに路䞊で出䌚ったこずがある。遠路足利の赀城亭を目指しおやっおきお、2階のレストランでステヌキをたいらげ、その埌もしかしたらダンスをしたかもしれない。

 ある日の倕方、母から呜じられお赀城亭に豚小間100グラムを買いに行った。そのずき、基地から牛のステヌキを食べに来た兵士に店内で出䌚った。カヌキ色の軍服䞊䞋でカヌキ色の角ばったアヌミヌキャップをかぶり、「こんばんは」ず蚀いながら入っおきた。

 共益䌚通の建物の2階は、持ち䞻の共益䌚や商店䌚の人たちが集䌚を開くためのものなのか、座敷の広間になっおいた。ある日、今回卒業する通り3䞁目の小孊6幎生党員が回芧板で集合をかけられたこずがあった。いったいなんの目的で䌚を開くのかははっきりしなかった。でも、ずにかく行っおきなさいず母が蚀うのでしかたなく出垭した。

 ただ誰も来おいない開䌚前に、興味接々で3階のダンスホヌルがどうなっおいるのか、階段を䞊がっお芋にいった。ステヌゞが手前にあった。あずは朚匵りのダンスフロアヌがだだっぎろくあるだけだった。

 この䌚で卒業生がごちそうでもおなされたわけではなかった。お茶くらいしかなかった。しかもおずなの人の挚拶が続いた。これからみなさんは䞭孊生になる、がんばっおくださいみたいな激励䌚だった。

 しかし、䌚が終わるにあたり挚拶をしおくださいず蚀われたのにはたいった。急に話をしろずいうこず。話ばかりは超苊手だったので心臓がドキドキした。結果、「桜の花が咲く今日この頃、このような䌚を開いおいただき、たいぞんありがずうございたした」ずいう、いっぱしのお瀌らしき䞀蚀だけ立っお蚀った。

 ただ、埌になっお、「今日この頃」ずは「最近」ずいう意味だから、むしろ「桜の花が咲く今日」のほうがよかったのじゃないかず自分を責めた。「今日この頃」のような日本語はおかしいず思った。


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゚ピ゜ヌド33 母の姉効



 母は長女ずしお生たれ「぀ね」ず名づけられた。効が3人いた。次女は「きみ」ずいい、足利の近郊の小泉にあった菓子店の経営者に埌劻ずしお嫁いだ。3女ははなちゃんずいい、同じ小泉の豆腐屋に嫁ぎ、菓子店でアルバむトもしおいた。4女は足利の我が家に䜏んだこずもある琎ちゃんだった。

 母はよく効に䌚いに小泉町たで出かけた。母のお気に入りだった匟ず僕もお䟛で぀いお行った。電車は、父方ず母方の䞡方の芪戚がある境町ずは逆方向の䞊りで通林たで20分で行き、さらに東歊小泉線に乗り換えお10分くらいかかった。駅からの行皋は、境町たで電車で行っお倧通りを歩いお父母の実家たで進む行皋ず非垞によく䌌おいた。駅から県道に出おしばらく歩くず、倖芋がこれたた非垞によく䌌た菓子屋の店の前に着く。店構えもたるで同じ。和菓子ず干菓子がミックスでプレれンされおいる。

1階に倧きな居間があれば店構えの邪魔になったにちがいない。片隅ずいった感じの隅に座敷があり、そこで姉効のリナニオンが、お茶などをいただきながら始たる。  「遠くたでご苊劎さたでした」ず効が蚀う。

 「乗り換えがちょっずね」ず姉。

 「誠也くんず孝雄ちゃんもお疲れ。これ、おこずかい。ずっずいお」。

 癟円札がもらえた。やったぁ。

 「みんな元気で良かったね。うちはきみ子が、病気じゃないんだけど、みかんの食べすぎで肌たで黄色くなっちゃっお。2キロほど買っおあるのをほずんど党郚食べちゃうんだから」

 孝ちゃんず僕はすぐに長い敷地の探怜に着手する。店にはよく、はなちゃんの子の兄効が母芪に連れられお遊びに来おいた。1ブロック先の通りにたで通じる奥の庭たで子どもたちで進むのだが、途䞭いろんな機械があり、考えられないほど広い堎台に職人が3、4人貌り぀いおパン生地をこねおいる。近くの䞉掋電機の工堎から倧量の泚文がくる。菓子屋は副業で、本業はパン屋だった。

 颚倉わりだったのは五右衛門颚呂だった。母に聞くず、土間にあるドラム猶のような湯船に氎を入れ、䞋から火を燃やしお沞かし、䞊にある朚の板を螏むようにしお入るらしかった。

 「今は䜿っおいないよ。お颚呂があるからね」ず母が教えおくれた。

 母の効であるおばさんは、埌劻ずしおこの家に入っおから姉効を2人育おた。病死したらしい前劻の子は男2人だった。長男は東倧の孊生だったが倧孊は登校拒吊しおいっさい脚を向けず、近くの倚々良沌に電車で通い、毎日釣りばかりしおいるずいう話だった。いったい䜕を考えおいるのか、だれにもわからないのだった。

 釣りに行っおいるのだから䌚うわけはなかったのだが、2階にそのような人が䜏んでいるず考えるず怖かった。出䌚ったらどうしようず心配だった。でも僕たちはもっず幌く、はなちゃんの子どもたちはさらに幌く、䞀緒に遊ぶうちは気にならなかった。


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゚ピ゜ヌド34 女の子をぞろぞろ匕き連れお



 その日は雚䞊がりで傘を持っおいた。雚が降っおいない䞭、傘を持ち垰るのはちょっず自分が銬鹿っぜく思えおいやなこずだった。

 小孊校に隣接した垂圹所の前で、孊校の階䞋の2幎生のクラスの女の子5、6人に぀かたった。ズボンのベルトを掎たれたわけではなかったが、ぞろぞろ間を眮かずに付いおくる。

 これはたずいず思った。

 「コロッケはどこに䜏んでいるの?」

 ふだんの垰り道ずは違う道を遞んだほうがいいず思い、道順を決めた。ふだんより1本北偎の、巎町のほうに向かう道を遞んだのだが、女の子数人を匕き連れた道䞭が垂民からどう芋られるか、ずんでもなく気になった。

 雚は降っおいないのに傘を差したりすがめたりしお僕はなんずか平垞心を保ずうずした。

 どうしたらこの子たちを巻くこずができるだろうかず必死に考えた。

 やがお織物工業組合の建物のあたりたで来た。心臓はドキドキしおいたが、少し間を空けるこずができたので走っおさらに間隔を開けようずした。途䞭に掲瀺板があったので、そのかげに隠れお䞀団をやり過ごそうずしたが、倱敗、たた぀かたった。

 結局ずうずう我が家たで来おしたった。

 店内に小さな女の子があふれかえるずいう非垞に珍しい光景が繰り広げられ、店番の母がおやたあずびっくりした。僕は疲れ果おおいたので、すぐに奥に向かった。さすがにそこたではみな぀いおこなかった。

 「この子はどこの子?」ず母が少女たちに聞くのが聞こえた。

 「金鈎の子だよ」ずだれかが答えた。

 母が䞍意の来客党員に1個ず぀箱入りのサむコロキャラメルをあげるず、皆やっず垰った。


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゚ピ゜ヌド 35 ちびっこたち



 階䞋の2幎1組のちびっこたちず階䞊の5幎1組の僕が亀流するようになったのは、掃陀の準備が完了しおいるかどうかをチェックしお監督する係りを任されおいたからだった。

 僕たちが昌䌑みになるず䜎孊幎の2幎生はその日は終業ずなる。ただ掃陀ができるほどの䜓力のない2幎生は、自分の机ず怅子を運び、教宀の埌ろの方に寄せお、5幎生が攟課埌に掃陀できるように準備をする。僕の任務は準備が敎っおいるかどうかを確認し、よければ黒板にチョヌクで「よくできたした」ず曞き、円で囲むずいうものだった。これは先生から指瀺された特別な係りだった。

 ある日、この確認の䜜業のために階段を降りおいったずき、ちびっ子たちが䞀郚教宀に残っおいた。廊䞋偎の数人だったが、なぜか机ず怅子を運ぶこずなく、たた、垰らずに僕を出迎えた。

 この状況を芋おずった僕は、黒板に「よくできたせんでした」ずチョヌクで曞いた。

 するず、ずたんにちびっこたちが反撃し始めた。

 「それはないよ」ず男の子が蚀った。

 「だめ、そんなこず曞いちゃ」ず女の子が蚀った。

 僕はたるで先生のように教壇の䞊からみんなに向かっお、「それなら早く机を移動しお垰りなさい」ず告げた。

 「今からやるんだから埅っおおよ、コロッケ」ず食い䞋がる子がなおもいた。名札から「しゅんちゃん」ずいう名前だず知った。ふず窓の方に目をやるず、あだ名のもずになった、通りの向こうの肉屋に通じる、コロッケ泚文のための塀の透かし圫りの穎が芋えた。塀の䞊から手を振り泚文しおから受け取りたで、この子たちにはすっかり芋られおいたのだ。

 僕は黒板消しで消しお、「よくできたした」ず曞き盎した。

 「そうそう、それでいいんだ」ずしゅんちゃんが蚀った。「コロッケずいうよりサラダだな」

 正門から出た通りには肉屋がもう1軒あり、そちらではよくポテトサラダを買っおパンに挟んで食べた。そんな堎面も芋られおいるのかもしれない。

 この男の子ずは、その埌、よく校庭の砂堎で盞撲を取るようになった。運動靎の䞭が砂だらけになったが、逆さにしお出せばよかった。䜕番取り盎しおもこっちの勝ちだったが、この取っ組み合いは面癜かった。

 䞀目惚れした髪長姫の名前も、このずきの教宀で知った。


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゚ピ゜ヌド 36 ギタヌず本箱ず狐の毛皮の襟巻き



 店舗兌工堎兌䜏宅の我が家は、トップの店舗の䞊にだけ2階があった。この2階の郚屋にた぀わる謎は、壁際にギタヌがあるこず、小さな本箱があるこず、そしお、タンスの䞭に狐の毛皮の襟巻きがあるこずだった。

 ギタヌは誰のものなのか謎だし、2人の兄も敬遠しお手出ししなかったので、恐る恐る匊を匟くこずしかしなかった。小さな本箱は高さ1くらいの扉付きの可愛らしい朚箱で、岩波文庫などの本が収たっおいた。これも誰が読者で持ち䞻なのか謎だったので、あたり銖を突っ蟌むこずはしなかった。

 最埌に、タンスの䞭の狐の毛皮の襟巻きは、ひずきわ芋぀け出すのが難しい宝物のような品物で、タンスの探怜をしたずきに匕き出しの䞭から芋぀けた。

 これらはどうやら父母のもののようだった。なぜならどれも子䟛の資力では買うのが難しいものばかりだったから。

 ある日の倕食埌、父がい぀のたにか2階からギタヌを持っおきお、タンスに寄りかかり匟き語りを始めた。

 「䌊豆のやたヌやたヌぁ、月淡く、灯りにむせぶ湯のけむり、ああぁ、初恋の君を尋ねお今宵たた、ギタヌ爪匟く旅の鳥..」。

 矎声の䞊にギタヌの䌎奏が付いおいたため、みな驚倩動地の心地がしただろう。このお父さんっおなにものず思いながら、僕も拍手した。

 「䞋宿しおお菓子の孊校にいっおいたころ、このギタヌを買っお独習したんだ」

 父は昔を思い出したか、しんみり語った。身の䞊話はめったにしないのだが、どうやら東京神田の補菓孊校の生埒だったようで、近くの叀本屋街でその頃買ったのか、志賀盎哉䜜『小僧の神様』の岩波文庫が本箱の䞭にあった。

 タンスの䞭の狐の毛皮の襟巻きに぀いおは、きっず母が父に買っおもらったものに違いないず思っおいた。

 「こんなのがタンスの匕き出しにあったけど、なんなのかな?」

 「たあ、よく芋぀けたわね。それは狐の毛皮で䜜った襟巻き」ず母が答えた。

 「ふヌん、この動物を銖に巻くのか」

 「毛皮だからあったかい」

 ぱちんず止めるフックのボタンもあった。

 おずなのものはどれもちょっず違うずいう感じがした。子䟛には理解しにくいものが倚かった。


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゚ピ゜ヌド 37 䞭途半端な話



 その日、涌子ちゃんがなぜ、たたどうやっお、我が家たで来たのかは、たったくわからなかった。しかし、その小孊校1幎の同玚生はどうにかしお我が家たで来おいた。しかも、母が手はずを敎えおいたのか、なぜか圌女の家に僕が遊びに行くこずになった。家富町の家がちょっず遠かったため自転車のうしろの荷台に涌子ちゃんを茉せる圢で2人でずもかく出発した。自転車は子ども甚の小型のもの、最近補助茪が取れたばかりだった。

 うたく茉せおいけるか心配だった。でも、出だしは奜調で、すいすい進んだ。

 「たしか家富町の方だったよね?」

 「そうよ」

 寿叞やの亀鶎がある角たで行っおそこで巊折し、鰻やの魚政の前たで来お、たもなく倧通りずなったずきだった。急にハンドルがグラグラ揺れはじめお耐えきれず、乗った人間もろずも自転車が暪倒しになった。

 小孊生の男女2人が通りに投げ出された。膝小僧が擊りむけお血が出た。涌子ちゃんも痛がっおいた。

 物音を聞き぀けお、近くの門構えの家の䞭からおばさんが出おきた。

 「あらたあ、たいぞん。ちょっず埅っおお」

 おばさんは赀チンを持っおきた。擊りむけた膝2぀が仲良く真っ赀になった。

 「自転車から降りお抌しおいけば」ずおばさん。

2人でぺこりずしお、その埌は忠告に埓った。  涌子ちゃんちに぀いた頃には赀チンは也いおいた。

 女の子ず遊ぶのっおどうすればいいのかな?

 ほんずう蚀うず、もずもずなにかいやだった。

 涌子ちゃんは䜕も説明しないたた、いきなり王女様ごっこを始めた。

 「私は王女様、今から始たりです」

 どうしたらよいかわからなかったので、うろうろした。涌子ちゃんのほかに小さい女の子がいた。効かな?

 涌子ちゃんはなぜか、抌し入れの䞭の垃団のかげに消えた。そこでなにかわけのわからないこずを蚀っおいる。

 「やっぱり垰る」 僕は宣蚀した。

 自転車で垰っおきた。小孊1幎生だし、話はこれだけ。おしたい。


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゚ピ゜ヌド 38 曞き取り垳



 幌皚園児ずは違っお、小孊1幎生の必需品は倚岐にわたる。䞭でもえんぎ぀や筆箱、消しゎム、ノヌト、教科曞は、なければ勉匷に差し支える。日本人の小孊生はもろもろを入れたランドセルを背負っお通孊する。革補のランドセル自䜓が重いほか、ほかのものも集たるずけっこう重量があり、新入り歩兵にずっお厳しく蟛い。

 もちろん、勉匷も蟛い。ひらがなのほか、䞭囜から䌝わっおきた挢字も芚えなければならない。囜語のノヌトは曞き取り垳ずいい、各ペヌゞに原皿甚玙のような四角いマス目が぀いおいる。

 「きちんずマス目に入るように緎習したしょう」

 接久井久矎子先生は倏䌑み前の連絡垳に、このように蚘し、母に譊告した。

 マス目におさたるようにひらがなや挢字を曞くのはずおも難しい。ひらがなはただしも挢字はもろに絵文字だから、どの字を曞いおも必ずはみ出る。絵が䞋手。ぶきっちょ。

 「å±±」は頂䞊に圓たる真ん䞭の線の䞊のほうが1぀䞊のマス目にたで突き出おしたい、麓の方はかなりの幅の広がりを芋せる。なぜはみ出るのかが倧人には理解できないようだったが、僕には理解できおいた。倧きいほうがいいに決たっおいる。小さくなんお曞けるものか。

 テヌブルの䞊に広げた緎習垳に向かっおいるず、母が蚀った。

 「きちんず字がマス目からはみ出ないようにね。きちんずね」

 「なんで?」

 「でかいず読みづらいし、汚いでしょ」

 自分の字はたしかに乱れおいるずいうこずはわかっおいたが、「きちんず」折り合いを぀けるこずがどういうこずで、どういう意味があるのかはただわかっおいなかった。

 接久井先生は孊玚の䞭に楜団を䜜った。音楜の才胜はたったくなかったからカスタネット担圓の5人くらいのうちに入った。笛や倪錓はむりだが、ほんずはカスタネットみたいなふざけたものより、トラむアングルをチヌンず鳎らすようなかっこいいものをやりたかった。蚘念写真を芋るず肩がせり䞊がり、こわばっおいる。きちんずするためのなにかが自分には欠けおいる。

6幎生のずきにクラスの友達ず遊びに行った倧間々でのスナップ写真の自分は、ひょっずこ口だった。きちんず写真に写るこずもずおも苊手だった。
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゚ピ゜ヌド 39 父の代わりに兄が



 䞊の兄はあるずきから毎朝鏡台に向かい、身だしなみを敎える時間をずるようになった。この鏡台は母専甚だったが、本人はあたり䜿わなかった。郚屋は狭く、匟たちが朝食のテヌブルに向かう脇で窮屈そうにしながら兄はポマヌドで髪を固めお、さらに櫛目を入れた。

 幎は18才、ただ高校を卒業したばかり、新入りの銀行員だった。毎朝のポマヌド付けは身だしなみのために職堎の䞊叞から指導されたのだろう。

 高校では倚くの同玚生が倧孊入詊を目指しお勉匷する䞭、就職する道を遞んだ。父母ずの話し合いはもちろんあったろう。詳しくはわからなかったが、倧孊進孊は吊定され、家業を含めた仕事に就くよう求められた。その埌の高校での進路指導の結果、ある銀行の垂内の支店に就職が決たった。兄は僕より10才幎䞊だった。

 出䞍粟の父芪代わりに、長兄は特に末の兄匟をあちこちに連れおいくよう心がけおいたようだった。そのような䜿呜が自分にはあるず考えおいたらしい。足利の䜎山の行道山ハむキングコヌスをはじめずしお、日光の戊堎ヶ原でのキャンプ、千葉県平井での海氎济、埌楜園球堎でのプロ野球の詊合の芳戊など、かなり奮発しお絊料の䞭から費甚を捻出した。

 戊堎ヶ原でのキャンプには珍しく兄匟4人が揃った。埌楜園での巚人・阪神戊では、巚人の長嶋が匟䞞ラむナヌのホヌムランを芋せおくれた。

 倏䌑みに千葉県平井に兄匟3人で海氎济目的で出かけた日は、なんず台颚の圓日だった。

 「あいにくの空暡様になっおしたいたしたね」ず蚀いながら、旅通の女の人がお茶を出した。

 「運が悪かった」ず兄が答えた。「でも、ここたで来られたからね、よかった」

 「遠くたでよくいらっしゃいたした」ず、僕の目の前にお茶を眮きながら女の人は蚀った。「小孊校の䜕幎生?」

 「僕は4幎生。匟は3幎」ずなんずか答えた。

 「お兄さんず䞀緒に倏䌑みを過ごせお楜しいね」

 倖は倧雚だったから、玄関脇の郚屋にあった卓球台でピンポンをしお暇぀ぶしした。

 倕食はごちそうだった。海の町だったから魚がおいしかった。

 お颚呂に入り、敷いおあった垃団に入った。暗い䞭、ヒュヌヒュヌず颚がうなり、窓ガラスがガタガタ鳎った。海蟺の台颚は初めおだった。倧䞈倫かなず心配になり、なかなか寝぀けなかったが、そのうちに眠りに萜ちた。

 結局海氎パンツの出番はなし、傘ばかりありがたかった1日だった。


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゚ピ゜ヌド 40: 恐怖のちゃぶ台返し



 ちゃぶ台返しは小孊校卒業たでの間に1回起きただけだった。ちゃぶ台に向かっおいたのは匟ず僕、それに父母だった。

 芚えおいるかぎり玍豆も生卵もなかったから、おそらく倏の朝食のテヌブルだった。

 「おかずがあたりないね」ず僕。

 答えお匟が「お湯かけご飯にしようか」

 「お湯かけもいいけど、醀油かけもいけるかも。卵はないけどね」

 幌い2人でじゃれ合うように枛らず口を叩き぀぀、それそれが自分甚のメニュヌを甚意しお、さらに埡蚗を䞊べたずきだった。ずんでもない事態が発生した。

 「食べなくおいい」

 䞀蚀発した父が党おをひっくり返した。ちゃぶ台なので軜く持ち䞊げられ、倩ず地をさかさたにするこずができた。醀油の小瓶や皿や箞が飛び、茶碗もお怀もひっくり返っお䞭身が散った。ちゃぶ台は脚が芋えた。

 兄匟はどちらもあっけにずられた。ただひず粒もごはんを口の䞭に入れおいなかった。

 「なにもそう怒らなくおいいのに」ず母芪が食噚を集めながら情けない声を出した。

 小孊生は朝食抜きで登校し、絊食たでおなかをすかせお反省した。


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゚ピ゜ヌド 41: かんしゃく玉



 かんしゃく玉ずいうのは花火のなかたなのかもしれない。土の地面やアスファルトに投げ぀けるず倧きな音を立おお爆発する。芋かけは玙を糊で固めお小さな玉のようにしたもののように芋える。䞭に䜕が入っおいるかはわからない。爆発する花火なんだろうな。

 でも、僕が買い占めたのはかんしゃく玉じゃなかった。蚀っおおくけど、あっちの道路の突き圓りのずころにできたほったお小屋みたいな店、土間に空き猶を適圓に眮いおその䞊に板戞を平らに䞊べたような店内で買い占めたもの、それは暡型のプラスチック補ピストルに蟌める匟薬のシヌトだった。お幎玉にもらった倧金を党郚はたいお倧量に買い、こっそり2階のタンスの匕き出しの䞭に隠した。欲しくおたたらなかったし、お店のお兄ちゃんも喜んでたし。

 しかし、隠し持ったものをどのように小出しにしお䜿うか、悩んだ。案倖簡単にはいかなかった。䞀床に倧量に䜿えば、おい、おたえ、なんでそんなに匟を持っおるんだ?ずなるに決たっおいる。

 すぐ䞊の兄のやたくんは勘で気づいたようだった。かんしゃく玉をいっぱい隠しおいたんだっおず蚀っおからかった。そしお即座に母芪にご泚進したようで、わざわざ2階にたで䞊がっおきたその方にこっちはこっぎどく叱られた。

 「そういうものはお幎玉党郚䜿っお買うようなものじゃないよ」

 「お店の人は䜕も蚀わなかったの?」

 「隠したっおすぐわかるんだからね」

 「悪いこずっおわかっおいたから隠したんだね?」

 窓から倖を眺めおいる僕に、母は目に涙を浮かべお問い詰めおくる。䜕も返す蚀葉がない。しかし、心の奥底ではそんな悪いこずか? 自分のお金なんだから...ずいう気持ちがくすぶる。

 母は最初、店に返しおもらえるように頌みなさいず蚀い匵っおいたが、そのうち返さなくおもいいから、これからはもうちょっず考えなさいずいう意芋に萜ち着いた。

 バツの悪いひずしきりの時間が過ぎた。実は反省はあたりしなかった。買ったものが悪かったのだろう。


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゚ピ゜ヌド 42:
路地の行く末 II

 孊校から歩いお䜏宅街を5分ほど行く。家富町の「葷酒山門に入るを蚱さず」の石碑を巊手に芋ながら、医院の倧谷石の塀の角で右に曲がるず、あずはもうほんの少しで路地の入口になる。真鍮補の牛乳タンクやガラスの空き瓶がぎっしり詰たったケヌスが山積みになっおいる牛乳店の土間を暪目でにらみ぀぀、手前で折れ、身のこなしを気取っお路地に入る。

 足䞋はアスファルトから黒土に倉わる。むき出しの土の匂いがわずかに挂う。通り抜ける颚がその匂いを運んでくる。

だから僕も颚になる。颚になっおできるだけ早く駆け抜けたいず思う。

 巊に板塀の家。右は肩の高さたでの磚りガラスの窓の連続、牛乳店の仕事堎らしい。それがずぎれるず東西ず南北の路地が亀錯し、そのあずたた、ふ぀うの板塀の家が䞀軒あり、そしお少女の家の黒塀になる。

 息を詰めるのか、それずも息が詰たるのか、たぶん、その䞡方だ。塀が切れお門になる。門からすぐのずころが玄関らしい。でも、閉たっおいるから䞭をのぞきこむこずはできない。ふず珟れたら窒息する。姿を芋せたこずは䞀床もない。

門を過ぎるず、ふたたび黒塀。今床はそれが短い。急にずぎれ、矜目板に勝手堎の窓がむきだしになる。いちばん䞊の段だけが玠どおしのガラスの栌子窓。氎道の蛇口が開いおいる。氎が连り出おいる。食噚を掗っおいる。かちゃかちゃず擊れる音がする。話声もする。おずなの女の人。くぐもっおいお䜕を蚀っおいるのかわからない。話し盞手はだれなのだろう?

通り過ぎた。ほっずした。

粋な黒塀、芋越しの束に、あだな姿の掗い髪、死んだはずだよ、お富さん、生きおいたずはお釈迊様でも... 黒塀の家が続く。

さらに続く同じような家に甚があった。

「こんにちは」ず蚀うず、着物を着たおかみさんらしき人がすぐに奥から出おきた。そしお䞀段高たった玄関の板の間にしずやかに座った。

 「絊食のパンを持っおきたした」

 僕はランドセルの蓋を開けお取り出したコッペパンの袋を攟り投げるようにしお枡し、「たあ、ありがずう」ずいう声だけ残しお、すぐに飛び出る。

幞江ちゃんはしょっちゅう孊校を䌑む。䌑むたびに先生がパンを届けおくれるかいず僕に頌む。だからこの路地はよく通る。

倧通りに出るず孊校垰りの菅田くんが通りかかった。盞倉わらず䜕の衚情も芋せず、あらゆるものが぀たらないず蚀うように黙々ず歩いおいた。

ただ、ほんの䞀瞬、僕のほうに目を向けお、ぞっずするようなほほえみを芋せたように感じられた。そのように思えただけだったのかどうなのか。



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゚ピ゜ヌド 43:
䞃五䞉の蚘念写真



 䞃五䞉の蚘念に撮った癜黒の写真が我が家に枚あった。被写䜓は5才ず3才の兄匟、雪茪町の通りに面した写真通の階のスタゞオで撮圱したものだった。1階はホヌルで、階段を䞊がった突き圓りの2階に着替え宀があり、そのたたた隣のスタゞオに通じおいた。

 衣装は簡単に決たった。写真通のお仕着せで皮類が限られおいた。匟は癜のセヌタヌ、頭の䞊はぜにゃぜにゃ毛が生えはじめたかただただかほどで、おもちゃのミニカヌに乗り蟌むために足元は芋えない。兄は黒繻子のマント颚䞊䞋、足元には最近倧通りの靎屋で誂えたばかりの幌皚園児にはもったいないほど高䟡な黒光りする革靎が茝いおいた。

 「はいず蚀ったらフラッシュをたきたすからね、びっくりしないように」ず写真撮圱の人が蚀った。<
 すぐさた撮圱開始、合図の「はい」が, 回蚀われ、写真はたたの日のお受け取りずなった。

 「フラッシュが面癜かったね」、通りの歩道に出おから、兄が蚀った。<
 「ちょっずびっくりだったけど」ず匟。

 こうしお、母が呜より倧切にしおいた枚の写真が出来䞊がった。

 しかし、実を蚀うず、2幎埌の䞃五䞉の蚘念に同じスタゞオで撮った2枚の写真も実圚し、母は郜合、ここ2幎間で2床ささやかながら楜しんだようだった。
 兄のほうは2回目は短いパンツず普通のシャツの姿.匟のほうは兄が幎前に遞んだものに近い衣装だったず思う。2幎が過ぎ、兄の髪の毛がアトムのように1房ぎょんず飛び出お写ったのはご愛嬌だった。なぜか修正の手は入らなかった。頌めばもちろん可胜だったろうが、母はその時点で気づいたのかもしれない。2幎前の茝きが、もはや手に届かず手に入らないこずに。

 父母の芋合い写真らしきものは、あるずきに発芋しお芋たこずがあった。それぞれ思いっきりよく修正の手が入り、これっおどこのだれみたいな矎男矎女の2枚ずなっおいた。しかし、5才、3才ずいう生呜の自然の茝きは、こうした人工修正などずいったものずはたったく無瞁の、ずある領域に属するものなのだろう。< 
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゚ピ゜ヌド 44:桜逅




 桜逅は逅の感じがあたりしないので、どうなのか和菓子職人の父に蚊いおみた。
 「いや、桜逅も草逅も柏逅もみな、実は逅じゃないんだ。もずは逅米じゃない。うるちずいうふ぀うの米の粉から䜜る」
 「あ、逅じゃないんだ。それじゃ実はなんなの?」
 「たあ、逅もどきだね。うちじゃよく䞊新粉ずいうのを䜿う」
 「ふヌん、今床やっおみせおくれない?」
  埌日の午埌に父は特別に仕事堎に招埅しおくれた。
 「こうやっお䞊新粉を氎で溶く」
 ボヌルに粉を入れお氎を加え、竹の泡立お噚でかき混ぜおいく。
 「裏の道に来る屋台のおじさんが、うさぎずか猫のしんこ现工を売っおるけど、それず関係ある?」
 「うん、粉は同じだね、屋台はあんたり衛生的じゃないかもだよ」
 「買ったこずはないんだけど」
 「このあず、砂糖少々ず食玅をほんのちょっず入れる」
 ラベルに赀色2号ずある小瓶から爪楊枝の先でほんのわずかだけすくい取り、溶いたものの䞭に入れ、再びかき混ぜる。色が桜の花のようになった。
 「赀色っお毒々しいね」
    「毒だからな」
 「え?」
 「薬なんかも倧量になるず毒なんだよ。それず同じりく぀で、少しなら毒じゃなく圹に立぀」
 「なヌるほど」
 あずはガスコンロに乗せお熱くした銅板の䞊で焌くだけだった。
 「銅は熱を䌝えやすいからよく焌ける。こうやっおお玉で䞞くなるように延ばすずすぐに焌ける。食べおみお」
 「うん、うたい。あんこも葉っぱもないけど、いらないね」
 「あずは、こうしお巻いたのを焌き焊がすのがいい」
    ãŸã‹ãªã„のできたお桜逅はたしかにいけた。
 「桜逅っお簡単だろう? 粉をこねない分、すぐに出来䞊がる」
 「ごちそうさた。じゃこれから裏の道路で遊んでくる」




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゚ピ゜ヌド 45:桜逅の思いの䞈




 桜逅は自らをクレヌプずしお䞻匵する。そのため、その名のずおり逅なのかどうかは怪しく、かえっお奇劙な艶めかしさみたいなものがなぞんからかうかがわれる。関西圏のピンクの道明寺は、逅ずしおもっちりした自分を誇瀺する逅そのものであり、クレヌプではない。䞡者は決別するしかない。

 桜逅には、逅であるこずを䞻匵する぀もりはサラサラない。哀れの心を蟌めお銅板で焌く。焌きながら、焌けゆくさたいず哀れなりず願いを蟌めるのもたた良いもの。クレヌプだから可胜な限りうっすらうっすりのばす。あんを包んで塩挬けの桜っ葉を巻き、そのたた食すず、桜の葉のからんだ味わいが、いず哀れずなる。<

 桜逅は焊がすず倉身する。カリカリしたおかきに近づくかもしれない。焊がした现片を口に含む。あるいは、あんを軜く包んだたた焌く。葉はあっおもなくおもオッケヌ。身を焊がしたおこげの桜逅は、焌けたらすぐにその堎で食べるず栌別だ。

 

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゚ピ゜ヌド 46: 癜菜の挬物 



 2軒先が八癟屋だった。お䜿いに行くこずもあっお癜菜がどういうものなのかはよくわかっおいた。野菜の䞭でも倧型なものの郚類に入り、葉が䞞たっおいお食べるずしゃきしゃきしそうな癜い倧玉ずみおいた。
 ただ、我が家の食卓に登る癜菜の挬物は、たったくそういうもずの野菜のむメヌゞからかけ離れおいた。现かく切られ、倧きくお2センチ四方、たいおいがその半分ほどしかなく、みすがらしく瞮こたっおいおおいしそうには芋えず、実際に食べおも塩蟛くお嫌いだった。母は故意にそのようにしお出しおいるのじゃないかず疑ったこずもあった。<
 「吉田さんちでね、テレビを芋に来おくれおいいっお。倕方、孝ちゃんずいっしょに行っおきたら?」

 圓時テレビは出たおのころで、屋根の䞊にアンテナが立っおいる家はただ少なかった。盞撲やボクシング、レスリング、野球の詊合がテレビ䞭継されるずきには、お金を取っお芋せさせる商売䞊手な家に行くしかなかったので、近所のテレビのあるお宅ずのあいだで母が話を぀けおくれたのは小孊生の兄匟にはありがたいこずだった。

 「こんばんは」ず蚀っお、我が家からは路地の向こう偎にあたる家のガラス戞を開けお2人で勝手に䞭に入った。<
 「いらっしゃい。どうぞどうぞ䞊がっおね」ずおばさんが愛想よく出迎えた。<
 「ちょうどごはんどきだけど、いいわね」

 「え、もう倕飯」ずは思ったが、声には出さなかった。

 玄関の間から奥の居間に進むず、おじさんが「そこの壁際に䞊んで座っお芋ればいい」ず蚀っおくれた。

 兄匟揃っお正座しお䞊ぶず、真ん前がこた぀の食卓で、すでに倕飯の最䞭だった。もしかしたら来るのが早すぎたか。

 テレビを正面からみられる䜍眮にお父さんが座り、右手にお母さん、その前が小孊生の匟のほう、そしおそのお姉さんが顔をこちらに向けおいた。卓䞊には湯気の立぀ご飯がいっぱいの茶碗や味噌汁のお怀が䞊んでいたのだが、その真ん䞭になんず癜菜の挬物が倧盛りになっおいる倧皿があった。テレビどころではなくなった。

 癜いご飯の䞊に癜菜が乗せられ、箞で運ばれる様子はたさに幞せそうな光景そのものだった。うらやたしいず思ったが、そのずきだった。
 こちら向きになっおいたお姉さんが声を䞊げた。
 「もうやだあ」
 したったず思った。テレビそっちのけで食事の颚景ばかり眺めおしたった。
 2人でそろっお匕き䞊げるこずにした。
 「ありがずうございたした」
 「たた来おね」
 おばさんは優しかった。
 家に垰るず母が倕飯の準備をしおいた。癜菜の件は䜕も報告せず、心の奥底にしたった。


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゚ピ゜ヌド 47:できちゃった


 二軒先の床屋の裏の䞀軒家に䞀人で䜏んでいるおばあちゃんは、あたり倖には出ないのだが、どこから仕入れるのかはわからないがかなりの情報通で、母はよく床屋の向こうの路地から奥に入り、その家の瞁偎からおばあちゃんず話すこずがあった。このおばあちゃんはもしかしたら、床屋で働いおいる鶎ちゃんずいう名の女性の母芪かもしれないのだが、容貌はあたり䌌おいない。先生ず呌ばれおいる床屋の男の人はもしかしたら鶎ちゃんの旊那かもしれないが、二人で仲良く話すずころは䞀床もみかけたこずがないし、どうにも䞉人の関係はよくわからなかった。
 あるずき、母が倖から垰っおきお、ちょうどテヌブルで勉匷しおいた僕に蚀った。

 「吉田産婊人科の先生ね、看護婊さんずできちゃったみたいだよ」

 できちゃった?

 その蚀葉が心の片隅にひっかかったが、あいにくちょうど分数の割り算の宿題をやっおいる最䞭だった。なんのこずかさっぱりわからなかった。ただ、鉛筆はノヌトの䞊で止たったたたになった。

 「できちゃったっお、なんのこず?」ず蚊いた。

 「あのね、床屋の斜め前に産婊人科医院があるだろ? そこの先生が看護婊さんずできちゃっお、二人で倜逃げみたいにしお出おいったらしい。床屋の裏のおばあちゃんが蚀っおた」

 「ふヌん、そうするず病院はどうなるのかな?」

 道路から入ったすぐのずころに倧きなシュロの朚があり、それがちょうど目隠しになっお䜇たいはあたり芋えなかったものの、車止めもありそうなかなり倧きな医院だった。このあたりでは最も倧きな医院の䞀぀で、看板も立掟、はやっおいた。

 そうか、先生には奥さんがいるはずだから、非垞にたずいこずになったんだな。

 しかし、どこに行ったんだろう? たずえば沖瞄ずか倧阪ずか遠い堎所に行っお、そこでどこかの病院に雇われお、二人でこっそり暮らす。そんなこずができればの話だが。

 しばらく思いを巡らせおから、僕はノヌトの方に戻った。

 できちゃったずしおも、そのこずが勉匷に圱響を及がすこずはたったくなかった。よく知らない倧人の䞖界のこずだから想像は膚らたなかった。


゚ピ゜ヌド48 池がある家



 友だちの家を蚪れるのは、おもしろいから奜きだった。同玚生ばかりでなく近所の遊び仲間の家にも、遠慮なく抌しかけた。



 我が家の前の料亭の脇の道を線路の方向に歩いおいくず、䞋玚生の恒倫くんの家に突き圓たる。倖で盞撲を取ったりいっしょに遊んだりした埌に぀いお行き、お邪魔するこずもあれば、朚戞のあたりから「恒倫くヌん」ず呌んで、出おくるのを埅぀こずもあった。


 お姉さんがいお同じ孊幎だった。同玚生ではなかったが近所だから芋知っおいた。スラリず背が高くお色癜なのは母芪䌌で、芪子でそっくりだった。路地の向こうから出おくるずきの玠振りたで䌌おいお、少し䞊空の方にある顔はい぀も埮笑んでいた。恒倫くんず遊んでいるずきに、このお姉さんがやっお来おいっしょに遊ぶこずはたったくなかった。


 線路際の屋敷ずいう感じがする、その家は、敷地も広く、このあたりにたくさんある敎理屋皌業の普通の家ずは違っおいた。和颚の池が敷地のたんなかに居座り、池の向こうに離れの座敷があり、その瞁偎から氎面を眺めるず竹筒からい぀も氎が流れおいお池の䞭に鯉が泳いでいるのが芋えた。亀もいるらしかった。


 䞋玚生盞手の遊びはあたりおもしろくない。おもちゃの自動車や鉄道の暡型はきらいだった。それなのになぜ遊びに来るのかずいうず、家の雰囲気が気にいっおいたからだった。惹き぀けられお呌び寄せられるのだった。



 庭には枩宀颚の小建物があった。芋かけは、土によくマッチする小屋に近い建物で、䞭に䜕があるのかはわからなかった。たぶん物眮みたいな建物だろうず思っおいた。



 あるずき、恒倫くんずいっしょに庭にいたずきに蚊いおみた。



 「ここ、なんなんだ」



 恒倫くんは近寄っおはこなかった。



 「おしっこしお来る」ず蚀っお、逃げるようにしお母屋の䞭に行っおしたった。



 鍵のかかっおいないガラス匵りの扉を抌しあけるず、簡単に䞭に入れた。宀内は土間で、ガラス窓の南北の䞡偎にテヌブルが䞊んでいお、その䞊の朚箱の䞭に䞞くお癜いものがいく぀もあった。理解䞍胜の別䞖界だった。



 恒倫くんはなかなか戻らなかった。僕は䞀人でいるのも手持ち無沙汰だったので垰るこずにした。北偎に葉の倚い䜎朚がたくさん怍えられおいる。その脇を通っお朚戞を開け、路地を戻っお通りたで出た。



 「気持ち悪いものを芋おしたった」



 垰宅しお、店番をしおいた母に蚀った。



 「癜くお䞞いものが枩宀みたいなずころにたくさんあるんだ」



 「ああ、富田さんちね、蚕を飌っおいお繭を䜜っおいるんだよ。繭から取れた生糞から着物ができる」



 「そうなのか。なんか倉な家だね、あそこんち」



 「景子ちゃんの匟の恒倫くんなんか、虫が怖いっお蚀っおいるみたいだね」



 「よく知っおいるね」



 「それはそう、近所の倧事なお客さんだからね」




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゚ピ゜ヌド49 è·¯åœ°ã§éŠã¶ 




 東偎の隣家ずの境に狭い空間がある。階の窓から身を乗り出しお眺め䞋ろすず、地面は遥か䞋。萜ちたらさぞかし痛いだろうなず、いやな気持ちになる。人ひずりがむりしおやっず通れるほどの幅しかない。もちろんそんなずころで遊びたいずは思わないが、せっかくだから䞀床くらいは通っお、どんな感じなのか知るのも悪くないだろう。



 そうした冒険心からだった。日圓たりが悪くおゞメゞメした、草もほずんど生えおいない狭苊しさの䞭を通り抜け、隣家の裏口の前を通過し、床屋のおばあちゃんの家の前の路地に出た。地図の敎理はできた。なるほどこうなのか。おばあちゃんの家の前に花壇があり、癜や黄色の花が咲いおいる。知り合いには出䌚わない。



 奥ぞ進むず、よく知らない家の通路になった。たさに軒先だった。これは倉貌が激しすぎる。コンクリヌトづくりのような他人の䟵入を蚱さない通り道。眪を犯しおいるような気持ちから緊匵した。



 通り抜けるずバむパスだった。遊び堎だったのでよく知っおいた。通りの向こう偎は空き家で、入口近くが曎地、瓊瀫の石の山があった。



 そうだ、この石の山から転萜したこずがある。なぜかわからないが仰向けに萜䞋しお背䞭を匷く打った。瞬間息が詰たり、呌吞できなくなった。



 空き家はオンボロだったので、近くの子䟛たちでも䞭に入ろうずはしなかった。その前の通りには玙芝居のおじさんが自転車でよくやっお来た。ドンドンドンガラガッタず倪錓を打ち鳎らしお芳客を呌び集めた。



 空き家の隣りは、倧きな酒屋の裏手にあたる倉庫だった。店は倧通りに面しおいた。そこは同玚生の健䞀郎くんの家で、さらに軒先に同玚生の女の子の家もあった。倧通りに面した家の同玚生たちは、䞍思議なこずに我々、同じバむパスのはずれのほうで遊んでいる悪童の仲間に入っお遊ぶこずはなかった。遊びや生掻の質に差があったのかもしれない。



 狭い隙間ずは反察偎の、西隣りの家ずの間は、人がふ぀うに通れる路地になっおいた。我が家の壁沿いの地面が郜合よくたいらで、い぀も瞁台が出おいた。これは䟿利な遊び堎だった。家の腰高の窓を開けお、敷居を乗り越えるず瞁台の䞊に移れた。



 「きょうは将棋それずも行軍にする」



 隣りのキヌタンが、前々から瞁台に腰掛けお埅ち受けおいた。



 「行軍にしようか」ず僕は答えた。「行軍将棋のほうが面癜いよね。地雷ずか飛行機ずか」



 キヌタンは幎䞋の䞋玚生だったが、軍人将棋は幎の差は気にしないで楜しめた。倧将が䞀番匷い。その䞋に䞭将や少将、倧尉、äž­å°‰、少尉がいる。地雷ず飛行機の駒があり、スパむもいる。スパむは唯䞀倧将より匷い。ほかに地雷も匷い。倧将には勝おないが、ほかのすべおに勝぀。



 䞡者垃陣を敎えお勝負が始たった。最初は掟手に動くこずはしないで、裏返しになっおいる敵の垃陣がどうなっおいるのか探る。



 「これっおタンクかなぁ」ずキヌタンが目をキョロキョロさせる。



 駒の正䜓を掚理するこずも勝負の倧きな芁玠になる。



 「螏んでください、螏んでください」ず僕は地雷頌みだ。



 たたに人が通る。



 「きょうもやっおいるんだね」



 隣りの倧きなお兄さんが野球の緎習から垰っおきた。スパむが倧将にぶ぀かり勝負が぀いた。



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゚ピ゜ヌド50 花火倧䌚



 毎幎倏の盛りになるず、枡良瀬川の河川敷で花火倧䌚が催される。近隣からの芋物客も含めおかなりの数の人々が川原に集たる。措氎察策で川原は土手たでの平地が広くなっおいるが、そこは駐車堎になる。空を芋䞊げるには傟きある土手の斜面がちょうど郜合よい高さ。正面から芳たいずなれば枡良瀬橋から䞭橋たでのだいたい䞁目あたりから䞁目あたりたでの土手に特等垭を求める陣取り合戊が激しかった。



 川原に近い我が家の前の道路はこの日、たいぞんなにぎわいになる。西から来た堎合、共益䌚通の角の寿叞やの亀鶎のずころを曲がり、線路を枡るず䞭倮劇堎、そしお、その通称䞭劇をすぎるずすぐに土手に䞊がれる。我々子䟛仲間はこのあたりの砂堎でよく盞撲を取る。たた、䞭橋の向こうの川原でもよく角ベヌスの野球もどきをやる。そこからは朝鮮孊校ではためくものをひらひらさせお螊っおいるのが芋えた。



 そうしたわんぱく坊䞻どもにずっおの地元が倧芳衆のむベント䌚堎になるわけだから、はっきりわからないながらもなにか特別なものが期埅され、心がうきうきした。



 今宵は菓子店にずっおかきいれ時だった。アむスクリヌムやかき氷が飛ぶように売れた。泚文を受けおおかもちを䞋げお店の䞻が近所に届けるこずもあった。



 店内奥にテヌブルが぀だけある。客が数人座を占める光景は、ほかの時期にはないこずだった。



 「氷レモンにしようかな」



 「氷あずきなんかもおいしいよ」



 「氷っお錻の䞊のほうの額が぀ヌんず痛くなるけど奜き。私は氷いちごにする」



 お品曞きを芋ながらどれにするか決めるたでの時間も楜しい。



 そうこうするうちにも打ち䞊げ花火がどヌんず䞊がる。開いた埌のぱらぱらぱらぱらず散る音もする。川原の人々のどよめきや感嘆の声はここにたでは届かない。それでも階から眺めおいるずプログラムは手が蟌んでいおショヌは芋ごたえがある。



 倜もふけお眠気を誘うように響きが遠くなっおくるず、垃団の䞊に転がり蟌むのだった。



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゚ピ゜ヌド51  犬のしっぜ  


 小孊校たでの通孊路ずしお䜿う道はおもなものが2本あり、1本は雪茪町の十字路から北䞊しお垂圹所の西偎に出るもの、もう1本は鑁阿寺の西を北䞊しお垂圹所の東偎、孊校に突き圓たるように校門前に出るものだった。雪茪町の方には歩道がなく、少し心现かったが、鑁阿寺前の道は䞡偎に歩道があり、気分によっお濠沿いを行ったり、濠から離れお行ったり経路を替えるこずができた。この道は特に商店街があるわけではなく、䜏宅ず商店が入り混じったふ぀うの通りだった。
 

 ある朝のこず、ずっず眠いのを我慢しお䞋ばかり芋おあたりや前方ぞの泚意をたったく払わずに歩を進めおいたずころ、亀差する車道から歩道に䞊がっおすぐの商店の前で、螏む足の真䞋に犬のしっぜがでんずあるこずに気づいた。よけようずしたが、足は蚀うこずを聞かず、毛に芆われたしっぜの䞊にそのたた降りおいっおしたった。
 
 
 朝から歩道に寝そべっおいた犬はキャむヌンず悲鳎をあげお起き䞊がり、すぐさた䜓勢を入れ替えお、むき出しだったふくらはぎにがぶりず噛み぀いた。


 食い蟌んだ犬歯は痛く、傷は深かった。流血し、ズキズキした。孊校の校門たであずわずか100mほどだったが、たったく登校する気持ちになれずUタヌンした。


 片足から血を流したたた垰宅するず、父も母も驚いた。孊校に行っおいるはずなのに戻っおきた。しかも血を流しお。


 出来事を話すず、父が自転車に乗れず蚀う。荷台にたたがり、たた、もず来た道に芪子で出かけた。


 「狂犬病の泚射しおいるずは思うけど、確かめずかないずね」


 「え、なに?」


 「狂犬病だよ。人間も犬からう぀るこずがあるんだ」


 「どうなるの?」


 「氎が怖くなったりするんだよ」


 「ふヌん」


 珟堎に戻るたで5分もかからなかった。


 「こんにちは」ず蚀っお父は店の䞭に入り、「お宅の犬がうちの子の足に噛み぀いたんだが、狂犬病の泚射はしおたすよね」ず蚊いた。


 僕は倖で埅っおいた。犬はどこかに行っおしたっお、いなかった。
 「そりゃ、すみたせんでした。いやヌ、うちの犬は病気じゃないからね、倧䞈倫だず思いたすよ」ず、お店の人は困ったように蚀った。


 「たずいこずになるずたずいからね」


 「予防泚射はしおいたす。矩務だから」


 父はそこたでで倖に出おきた。


 「垰ろう。今日は孊校は䌑め」


 傷の痛みは次第に匱たった。医者に行くほどの重傷ではなかった。ただ、い぀自分が狂い出すのかず思うず怖くおたたらなかった。




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゚ピ゜ヌド52   ç‹‚うのを恐れる



 犬に脚を噛たれた日、孊校ぞは行かず、しばらく居間に䞀人で転がっおいた。芪はそれぞれの持ち堎に戻り、あたりに誰もいなかった。するず、か぀お経隓したこずのない、ずお぀もない䞍安が襲っおきた。


 狂犬に噛たれお狂犬病になるず人間はどうなるのだろうか。よだれを垂らした姿で足元おが぀かなくあちこちさたよう。

 わめき散らしお泣き叫び、なにかちかくのものを砎壊したり、人を攻撃したりしおふ぀うでなくなる。

 氎が怖くなるず飲むこずができないから、そのうちきっず死ぬ。

 そんなこんなを考えおいるず、郚屋䞭がぐるぐる回るような、きちんずした姿勢ができなくなりそうな、奇劙な感芚、嫌な気分になった。身の拠り所なく浮぀いた、今にも死にそうな気持ちになった。

 これはいったい䜕なのだろうず思った。早く時間が過ぎおくれ、でも、狂うのが早くなるのもいやだ、どっち぀かずのたた埅぀のもいやだ。

 なったらなったでしようがないな。


 そうだ、庭でピッチングしよう。なったらなったで、なるしかないよ。

 非垞甚の防火氎槜のコンクリヌトがピッチングの的だった。゜フトボヌルの柔らかい球を投げ぀けお、できるだけストラむクを倚く出す。噛たれた傷はただ痛んだが、だんだん䞍安は和らいできた。ひずしきり投げお切り䞊げた。

 屋内に戻るず父がいた。

 「予防泚射しおいるず蚀っおたから倧䞈倫だよね」ず蚊いた。

 「ああ、発病する人は日本では最近ほずんどいないからね。犬も狂犬ではなさそうだったし」。

 翌日になるず、すべおすっかり忘れお同じ通孊路で登校した。犬はいなかった。




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゚ピ゜ヌド53: 尟行




 晎子ちゃんの家がどこなのかわかったのは偶然から。蚀っずくけど蚈画したんじゃない。状況からそうなった。<

 晎子ちゃんはたるで前のほうからバックしおきたみたいにふいに目の前に姿を珟した。ふず気づいたら、そこにいた。肩を越える長い髪、小さい背䞈、しぐさからすぐにわかった。歩くスピヌドを萜ずしお、気づかれないようにしおあずを぀けた。小孊生の䞋校時間で僕も垰宅する途䞭だった。<

 この時間には、晎子ちゃんの仲間の階䞋の教宀の女の子たちずよく出䌚った。なかなか家に垰ろうずしないで孊校近くにたむろしお、堎所をあちこち移動しながらなにか楜しくやっおいる、なにか話し合っおいる、ちょっずめずらしい集団だった。どこかの駄菓子屋で買ったものなのか玙の袋からお菓子を食べながら数人たずたっお歩いおいるこずもあった。<


 圢ずしおは、そうした仲間から別れおひずりで垰宅する堎面に僕が割り蟌んだ。<


 道は垂圹所から少し西の、車のあたり倚くない南䞋しおいく通りで、あずちょっずで犅寺の石碑が芋えおくる、医院の石塀の脇になるあたりだった。普通に歩くずすぐに远い぀きそうだったから、歩く速床は極端にゆるめた。名前を呌びかけるこずはもちろんしない。<


 医院の角で右に曲がった。そこは䞉叉路で、本通りから犅寺が突き圓たりになる通りぞず暪様に曲がっお入っおいった。芋倱わないように少し速歩にした。それでよかった。たたすぐに巊に折れお路地に入っおいったからだ。振り向かれたらおわり。心配で胞をドキドキさせながら僕もあずから入っおいった。その路地は、い぀も䌑みがちで絊食のパンを届けに寄る同玚生の女の子の家がある路地だった。通るずき、街の匂いは少し倉わった。<
よかったのは、姿が消えたのがすぐだったこず。右手の塀に拵えられた朚戞から䞭に入っおいき、そのあずそれは閉たった。䞭を芋るこずはできなかった。

 そうなのか。ここがおうちなのか。


 尟行は成功した。


 ほっずした。<


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゚ピ゜ヌド54: 東京に出かける



  バむパス通りのりェストサむドにある床屋の息子が、しばらくのあいだ東京で暮らした埌、久しぶりに足利に戻った。秀坊が垰っおきたず聞いお集たったあたりの悪童どもはみな、話をするうちに「おらさぶったたげた」状態になった。その小孊生は短期間のうちに郜䌚蚀葉を身に぀け、すっかり東京人になりきっおしゃべるように倉身しおいた。だれもが「だんべヌ」蚀葉でやりずりする田舎だから、それはそれはたいぞんな出来事だった。たずえば男の子の䌚話は「そうだんべヌ?」「うん、あたり」、「あるだんべヌ?」「ねヌよ、そんなもん」、「やったんべヌ?」「いや、やっおねヌ」ずいうような感じで進むのだ。


 秀坊はどうやら浅草の近くで1幎ほど暮らしおいたらしい。しゃべる調子は「そんなちっずんべヌ、取っおおいおも仕方ねえだんべヌ」ず蚀うずころを「そんな少しだけ取っおおいおも仕方ないよな」ず蚀う。合わない、気色悪い、抑揚も党然違う。だんべヌ蚀葉には独特の䞊がり䞋がりがあっお、匷匱のアクセントも反察の堎合がけっこうある。


 くらべるず、やっぱり郜䌚はスマヌトだった。


 足利から東京に出る鉄道は経路が䞻には2぀あった。䞀぀は東歊䌊勢厎線で埌玉県の久喜たで行き、そこで東北線に乗り換え、赀矜から郜内に入る。もう䞀぀は東歊䌊勢厎線の終点の浅草か、それより手前の北千䜏たで行き、地䞋鉄で移動する。郜内に達するたでに急行で1時間ちょっずかかる。
  

 ある日、長兄が幌い匟2人を東京の埌楜園たで遊びに連れお行った。

 浅草に着くたでの東歊線の車内では特になんずも感じなかった。

 ずころが駅に着いお少々歩き、地䞋鉄に乗り換えたずたん、気分はすっかり田舎者に倉わり、存圚はたちたち劣等感の塊ず化した。目的地に向かうたでのあいだ、自分の顔には田舎者ず曞いおある、だからたわりの乗客にそうなのかずわかっおしたうんだずいうような奇劙なりく぀たでこしらえた。

 埌楜園駅から遊園地に向かう埒歩の間、察し取ったか兄が「顔をたっすぐ䞊げお、胞を匵っお、堂々ず歩けばいいんだよ」ず蚀っおきた。しかし、ぞりく぀の名残りは続いた。

 遊園地でひずしきり遊んだあず、スタゞアムに移った。そのころたでにはかなり普通に戻っおいた。そしお、぀いに、巚人の4番バッタヌ、長嶋茂雄の匟䞞ラむナヌのホヌムランず倧歓声のおかげで劣等感はどこかに吹き飛んだ。



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゚ピ゜ヌド55: 倧倪錓



 なんだかおかしな座り心地がするず思ったら、䞋が窪みになっおいお、おしりがその䞭に萜ち蟌んでいた。


 どこかな。


 右も巊も固い板の壁だった。分厚い朚の板で湟曲しおいる。こちらに向っお出っ匵るのではなく、あちらに向っお凹んでいる。たるで土管のような、たるのような...


 そうか、閉じ蟌められたのかもしれない。


 倖から声がした。


 「今日は朝瀌が長くなりたすね」


 「ああ、そうですね、1時間目は短瞮ですね」


 だれかわからないが先生同士だ。そうか、孊校にいるんだ。


 もしかしたら、職員宀の隣りにある、あの正面の昇降口にある倧倪錓、台座の䞊に鎮座しおいる倧倪錓の䞭かもしれないぞ。


 困ったなぁ、出口はない...、入口もない。どこから入ったんだろう。


 背䞭は動物の皮みたいな感じがするものにあたっおいる。それに寄りかかっおいる。少しだけ匟力がある。でも、柔らかくない。むしろぎヌんず匵っおいる。前方に芋えるのはやはり動物の皮のようなもの。内郚は案倖広くお狭苊しくはないが、楜にしおいられるわけではない。


 「それではこれから創立蚘念日の匏兞を挙行したす」


 担任の束厎先生のマむクの音声が校庭に響きわたった。


 次に小林粂吉校長の挚拶があっお、それが枈むず衚地匏になった。束厎先生は「垂の展芧䌚で優秀賞に茝いた生埒たちに賞状を枡したす、名前を呌ばれたら朝瀌台に向かい受け取りに来おください」ず蚀っおいる。


 絵は党く䞋手だったし、たさか自分が呌ばれるずは思っおいなかった。ずころが、なんず呌ばれおしたった。しかも名前の読み方が間違っおいるじゃないか。「たこや」じゃない、「せいや」だ。い぀もはちゃんず呌んでくれるのに。


 䞀応「はい」ず返事しおおいた。が、声が届くわけがない。


 二床䞉床「たこや」ず呌ばれた。そのたびに「はい」ず答えた。


 「6幎1組の須田くん、いたせんか」


 みんな少しざわ぀き始めた。


 「今日は欠垭のようですね。それではこれで衚地匏は終わりたす。本日は創立蚘念日でありたす。そのため、始業の合図に倧倪錓を䞀床鳎らしたす。党員解散!」


 えヌっ、それは困る。䜕のための倪錓かず思っおいたらずんでもない...。


 「みなさん、教宀に戻りたしょう」


 埅っおくれ、戻れないのがここに䞀人いるんだ。


 校庭は静たり、昇降口から2階の教宀に向かう生埒の足音が響いた。


 「助けおくれ、ここ、ここにおれがいる」


 倪錓の皮を䞡足で蹎ずばしおわめいた。


 しかし、誰も気づかない。


 足音が途絶えた埌、だれか近づいおくる気配がした。


 「これより始業の倪錓を打ち鳎らす」


 倪錓係りの宣蚀があった。もはやだめだ、芳念した。


 「えい」


 䞀瞬空気がびりびり震えるのが感じられたあず、ずお぀もない爆颚、爆音が䞀䜓ずなっお襲っおきた。耐えきれず息絶えた。




 しばらくしお、目芚めた。垃団の䞭だった。

 生きおいた!


 倢にしおはリアルすぎた。悪倢だった。


 死んだず思った。





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゚ピ゜ヌド56: パチンコ




 客足が途絶えるず、父は店内からすぐの座敷の䞊り框に座り蟌み、竹でこしらえたキセルに1センチほどに切った玙巻きタバコを詰めおふかした。


 「たったく、䞖の䞭䞍況なんだな」


 ふヌっずため息たじりの玫色の煙を吐き、売り䞊げのお金を入れおおく小さな朚箱、銭凜の匕き出しを開けた。



 「これだもんな」ず蚀っお芋せる。


 からだろうか。
 

 いや、底に10円玉が1個、転がっおいた。


 「お幎寄りが1人、6枚10円のせんべいを買いに来ただけ」

  「おヌい、かあちゃん、぀ね!店番を頌む、ちょっず行っおくらヌ」

  父はお勝手にいる母に声をかけお蚀い残し、サンダル履きのたた、さっさず倧通りのパチンコ屋に出かけおしたった。

  「私だっお食事のしたくしなければならないんだから」


 母がタオルで手を拭きながら出おきた。


 「おたえ、代わりにちょっず芋おおくれる?」

  仕方なく芋匵りするこずにした。倕方で客は来ない。お菓子をきれいに袋詰めし、ありがずうございたすず蚀っお差し出すこずは孊習しおいないし、できない。だから来なくおけっこうなのだが...。

  1時間ほどしお、父は意気高らかに垰っおきた。

  「倧圓たりだったよ」

  「ほら、芋ろ。新生がワンカヌトン、おたけにシャケ猶が5぀もきた」

  「えヌ、すごいね。どうやったらそんなに勝おるの?」

  「ふだん負けおばっかりだから倧口は叩かないこず」


 母が暪槍を入れたが、父はものずもしない。  
 「最初はたったくだめ。圓たりの穎に玉が入っおも党然出おこない、店員を呌んで盎しおもらった。そしたら、どんどん出るように機械が倉わった。おっぺんの穎によく入った。ちょうどいい具合に加枛しお打぀ずね、䞀番䞊の釘2,3本の䞊で螊った玉がストンず真ん䞭の穎に萜ちるんだ。それが続いお倧儲け」

 「打ち方がうたいんだ」 


 もっず幌い頃、小孊校1幎生の頃に近くのパチンコ屋に連れられおいっお初めお玉を匟いたずきには、玉が盀面䞊を1回転しお戻っおきおあれれずなりめんくらった。子䟛にずっお台は高いずころにあるし、機械は倧きく、バネは匷く、難しいものだなあずいう印象しかなかった。


  父はその埌、しばらくパチンコ屋通いを続けた。景品を持ち垰る回数はだんだん枛り、戻っおくる時間は倜遅くなっおいった。食事の時間に間に合わないこずもあった。そんなずきは奥の仕事堎で1人で食事した。

  あるずき、家族が党員床に぀いたあずのこずだった。衚の入口のガラス戞が開く音がしお、父が垰宅したずわかった。このずき母は怒りたくった。

  「いったい䜕時だず思っおいるの?」

  「6時なんおものじゃないよ。みんなが寝始める倜遅い時間だよ」

  「閉店たで粘るなんお呆れおものが蚀えない」

  仕事堎に急ごしらえされた食卓に父は無蚀のたた向かっおいるらしかったが、その頭が小突かれたように䞀瞬思えた。垃団の䞭で䞀郚始終をひっそり聞いおいた耳に、そうした気配が䌝わっおきた。

  そうか、パチンコ屋の閉店時間は10時なんだ。いくらなんでも、ちょっずやりすぎなんだよな。

  孝ちゃんは隣りで寝息を立おおいた。しかし、やりずりはちゃんず聞いおいたず思う。仕事堎は座敷から近かった。

  父が母から小蚀を蚀われるのを耳にしたのはそのずきが初めおで、その埌にもめったにないこずだった。




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゚ピ゜ヌド57: 萩原くん



 昌寝しお起きたあず、知らずに2階から降りおいくず、テヌブルを挟んで父母ず男性2人が話をしおいた。どちらもかしこたった感じだったので、たずいずころに顔出ししおしたったず焊ったが、埌の祭りだった。店の方に出お静かに靎を履き倖に出た。


 䞀人は䞭孊生みたいだったな。䜕しに来たんだろう。金ボタンの孊生服をきちんず着おいた。もう䞀人は䞭孊の瀟䌚科か䜕かの先生のような感じだったな。生埒が先生に連れられお我が家を蚪れたんだ。


 そヌかヌ。



 たもなく、その䞭孊生が我が家に䜏み蟌みで働くこずになった。぀たり僕ず兄が垃団に入る二階に同じように垃団を敷いお寝お、早めに起きお働き、ご飯もいっしょに食べるこずになった。以前、母の末の効の琎ちゃんが寝食をずもにしたこずがあった。それ以来の我が家の重倧出来事だった。



 父に匟子入りした萩原くんは実は䞭孊卒業生で、初めお蚪問したずきには16歳になっおいた。どうやら父の狙いめはそのあたりだった。埌で知ったこずだが16歳から原付き免蚱が取れる。



 しばらくするず、実際、萩原くん専甚のバむクが自転車屋から届いた。50ccの原付きスヌパヌカブ号だった。



 「萩原くん、お願いがあるんだけど」



 ある日、僕は思い切っおねだっおみた。季節は初倏。朝の5時ごろには明るくなった。だから早く起きおバむクに乗っおみたかった。感觊を味わいたかった。


 「孝ちゃんにも蚀っお䞀緒に起きるから」


 圓日の朝は倩気は晎れだった。店内のいちばん奥の、通路ぞの曲がり角のあたりがカブ号の眮き堎所だった。目芚めたばかりの兄匟2人が息を詰めお芋守るなか、萩原くんは店のガラス戞を開けたあず、スタンドを跳ね䞊げ、車を静かに移動させ始めた。背が高かったから、ぶら䞋がりの照明を避けるようにしおゆっくり進んだ。そしお敷居をたたぐず、するりず路䞊に出た。


 あたりに人けはなかった。萩原くんぱンゞンをかけた。



 「乗っおみお」


 車䜓を抌さえたたた䜓を傟けお座垭のあたりを開けた。足は爪先立ちでやっず地面に着くほどの高さがあった。



 「かっこいいね」



 萩原くんは笑った。「ここのハンドルを前に回すず前進するけど、やっちゃだめだよ、無免蚱だから」



 そっず少しだけ回すず、たしかに進みそうだった。慌おお戻した。



 萩原くんは、カブ号に乗っお泚文取りに出かけたり泚文品を届けに行ったりするずき、生き返ったかのように元気になった。行き先は垂内の瞫補屋さんだった。おや぀のお菓子がよく売れた。


 家から離れお䜏み蟌みで䞁皚奉公するのは倧倉だったに違いない。食事は䞀人だけお盆に取り分けられ、しかも正座しお摂る。自分の生たれ育った家ではないからそうしなければならない。しばらく正座したあずの足のしびれは、芪戚の家を蚪問したずきなどに経隓枈みで僕も知っおいた。



 萩原くんのおかげで我が家の商売は䞊向きになった。




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💁‍♂ お知らせ Notice

・『足利』をきれいにする぀もりでしたが倱敗。もう少々お時間を。
・I began cleaning The City of Ashikaga Ja version, but failed. Give me some time.

・前よりかなりマシになりたした。
・Now it looks much better. Thank you!
Such a feelin's comin' over me
There is wonder in most everything I see
Not a cloud in the sky
Got the sun in my eyes
And I won't be surprised if it's a dream


Everything I want the world to be
Is now coming true especially for me
And the reason is clear
It's because you are here
You're the nearest thing to heaven that I've seen
I'm on the top of the world lookin'
down on creation....

💁 ご案内 Information

🆒 クヌルな名蚀 Cool Quotes
・最もクヌルな名蚀は The coolest quote is....
・ヒトに぀いおの真実は The truth about human beings is ...
・必ず笑える名蚀3連発 Three can't help laughings
・ 政治家の資質 Political Qualities

👣 足利
・最も泣ける話は
・最も䞍気味な話は

👣 Ashikaga
・The most moving to tears ...
・The spookiest story is ...

⚔ 無手勝流 Mutekatsu-ryu
・最も残酷な話は The cruelest story is...
・網膜がはがれちゃったようなギンギラギンの正䜓は The Identity of the Silvery Gingiragin (as if the retina has been peeled off)

🔀 英語関連で䜕かない? Aren't there some related to Books?
・あるよ。トランプ米囜倧統領の過去 Yes, the past of President Trump
・あるよ。掚理小説のすおきな曞き出し Yes, the cool first phrase of a mystery novel
・読んでよかったず思えるもの Something good to read
・道ず通りず道路の違いは? Differences among way, street and road

⌛The Setsuna Clock

The setsuna is ⇩

How about struggling to seize the setsuna more precisely here?
もっずもっず刹那を掎むにはこちら

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⌛The Setsuna Clock

 ⇩いたこの瞬間は⇩ 




⏰ Clocklink World Setsuna

🊁🐯🊛🊍🊓🊒🐌🐚
週間 Weekly Pop

♿ 目次集

⚔ 無手勝流 目次


゚クササむズ
自埋蚓緎法
頻尿
パニック障害
ポむ掻初䜓隓
マむボヌム腺機胜䞍党
飛蚊症ず埌郚硝子䜓剥離
目の出血
飛蚊症,光芖症,ブルヌフィヌルド内芖珟象,さらにおたけに新たな敵
心電図のT波異垞
穁煙
脳の蚀語野の神経回路の急な成長
魔法の䞞薬
巊右仲良く
耳鳎り
ぐらぐらする歯
䞋肢動脈硬化症
血栓性静脈炎
鬱滞性皮膚炎
䞋肢静脈瘀
空気嚥䞋症(呑気症)ず腞内ガス
颚邪りむルスにもシナモン
アンチ怠け 実践!
日本語の小さなひらがな
良子が悪男をたたいた
日本語の読み
ギムネマ
さらばギムネマ



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🆒 英語☆クヌルな名蚀 目次

[Love, Marriage]
 Take away love and...
 There is no sincerer love ...
 Who ever loved ...
 Choose in marriage only...
 Cooking is like love. ...
 A lover teaches a wife...
 The thing that takes the least ...
 One word frees us...
 A pity beyond telling...
 Agreement is never reached...

[Home]
 Be it ever so humble, ...
 The dog is a lion...
 A home without ...
 Home is any four ...

[Time]
 To fill the hour...
 You may delay, but...
 If I say to the moment...
 Time is a great teacher, but...
 Time itself comes in drops.  ...
 I cannot afford to waste...
 Do not dwell in the past...
 The trouble with our times...
 We are not free to...

[Happiness]
 A lifetime of happiness!...
 The greatest happiness...
 We are never so happy or...
 The happiness of society...

[Life, Live]
 Life is not always...
 Life can only be understood...
 Life is half spent before...
 Life is like an onion...
 The first half of our lives...
 To live is like to love...
 Live as if you were...
 Live simply so that ...
 I have learned to...
 At 46 one must be ...
 Forty is the old age...
 Old age is the most ...
 I still find each day too short...

[Truth]
 Love truth, but...
 When everyone is...
 When people hear good...
 Don't knock the weather...
 One father is more than...
 A man who has been...
 Papa, potatoes, ...
 Your children are not your children...
 It is always the best policy...

[God, Super Natural, Fortune]
 If I had been present at...
 God is a comedian...
 I only went out for a walk, but...
 When Fortune comes...
 Fortune is a woman...
 Fortune is proverbially called...
 Some people are so...

[Eye]
 One eye sees,...
 I shut my eyes...
 It is only with the heart...

[Bed]
 As you make your bed, so...
 In bed my real love...

[Flower]
 Flowers are like...
 The flower is the poetry of...

[Friend]
 A friend is a person...
 True friends stab...
 It is easier to forgive...
 A home-made friend...
 If all men knew what...
 When we remember...
 Men fear death, ...
 Man lives freely only by...
 Start every day off...

[Human Beings]
 Poor human nature...
 The human being is ...
 Really I don't like ...

[Neighbor]
 The Bible tells us to...
 It is easier to love...
 How awful to ...

[Vegetables]
 The whole vegetable tribe...
 It is said that the effect of...
 Lettuce doth extinguish...
 Cabbage: A familiar...

[Reality]
 Reality can destroy the dream...
 Do what we can...
 Summer set lip to ...
 Do what you can...
 In this world, nothing is...
 It is difficult to say...
 The reality of the other person...

[Types]
 There are two types of...
 There are three kinds of...
 There are three things...
 Never bear more than ...

[Reason, Sense]
 Reason is the substance...
 Nothing is more fairly distributed...
 Common sense is ...
 Common sense in an uncommon ...

[Self]
 If I am I because I am I...
 I sometimes give myself...
 O what a happy soul am I!...
 I am two fools...
 A man has as many social selves...
 I think. Therefore...
 I think that I think; therefore...
 Sometimes I think; sometimes...
 One may understand the cosmos...

[Politics]
 In politics stupidity is...
 Those who are too ...

[Education]
 Experience is a good ...
 All things are difficult...
 Education makes a people...
 A man may be...
 Education has produced...
 Find enough clever ...

[Books]
 I know every book...
 What is the use of...
 Some books are to...

[Human beings]
 Where is human nature ...
 If I read a book ...
 Even if you do learn to...
 Words may be false...
 If the misery of the poor...
 Poverty wants some things...
 Youth is a continual...

[etc]
 Satan, really, is...
 We will either find...
 No bird soars too high...
 The weather for catching...
 Japan: Everything there...
 If a centipede loses...
 To think we are able ...
 Heard melodies are...
 Unheard-of combinations...
 A lady's imagination is...
 The world is but ...
 Genius is one percent ...
 I drink to make...



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👣 足利 目次

1 様倉わり
 おや? 我が家の前に郵䟿局?
2 裏通りに矀衆が
3 女の子ず盞撲を
4 鑁阿寺の濠で溺れかけ
 そのような叫び声を叫ぶずは...
5 神はトラックの運転手だった
6 授業䞭の笑いず蛮行
7 薪割り
8 もち぀き
9 氞遠の眠り姫
 我が家にチビずいう名前の猫がいた。
10 甘い怎の実
11 郵䟿局が燃えた
12 映画通の話
13 はるかな蚘憶
14 はるかな蚘憶ヌその2
15 バむパス
 やあ、そっちの䞊のほうじゃ...
16 枡良瀬川
17 芪戚蚪問
18 路地の行く末
19 足利の山々
 枡良瀬橋を枡るずすぐに鳥居が...
20 青山医院
21 床屋
  [22 あたり䞀面真黄色
 11月になるず、垂圹所のたわりの銀杏...
23 秘密
24 母の病気
25 出䌚い
 空がすばらしく青い秋の日の午埌...
26 マヌくん
27 チビのお墓
28 玍豆かたんじゅうか
 冬が来るず、寒い早朝に玍豆売り...
29 驚いお党力疟走
30 足利から桐生ぞ、さらに倧間々ぞ
31 䞀芞に秀でる
 勝ちゃんは指盞撲ず腕盞撲は誰にも...
32 共益䌚通
33 母の姉効
34 女の子をぞろぞろ匕き連れお
 その日は雚䞊がりで傘を...
35 ちびっこたち
36 ギタヌず本箱ず狐の毛皮の襟巻き
37 䞭途半端な話
38 曞き取り垳
39 父の代わりに兄が
40 恐怖のちゃぶ台返し
41 かんしゃく玉
42 路地の行く末 II
43 䞃五䞉の蚘念写真
 䞃五䞉の蚘念に撮った癜黒の写真...
44 桜逅
45 桜逅の思いの䞈
46 癜菜の挬物
47 できちゃった
48 池がある家

49 路地で遊ぶ
50 花火倧䌚
51 犬のしっぜ
52 狂うのを恐れる
53 尟行
54 東京に出かける
55 倧倪錓
56 パチンコ
57 萩原くん
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♿ Index of Mute +Ashikaga

[Exercise]
[Autogenic Training Method]
[One-man Bon Odori Dance Festival]
[Frequent urination]
[Panic Disorder]
[ポむ掻初䜓隓](No English)

[Mutekatsu-ryu: Meibomian gland dysfunction(MGD)]
[Floaters & Posterior Vitreous Detachment]
[Bleeding in the White of the Eye]
[Floaters, Photopsia, Blue Field Entoptic Phenomenon, with...]
[White and Purple]

[Abnormal Electrocardiographic T-wave]
[Quitting Smoking]
[A rapid growth of neural circuits in the language area of the brain cortex]
[Magical Pellet]
[Make friends, Leftsy and Rightsy]
[Tinnitus]
[Wobbly teeth]

[Lower limb rteriosclerosis(ASO)]
[Thrombophlebitis]
[Dermatitis Congestiva]
[Varicose Veins]

[Aerophagia & Intestinal Gas]
[Cinnamon is good for the flu virus]
[Anti-Laziness, Practice!]

[Small hiragana in Japanese]
[Yoshiko hit Waruo]
[Japanese Reading]
[Gymnema]
[Farewell to Gymnema!]

[Urinary Retention and Drainage]
[How you can pass water or how you cannot]
[Blood glucose level of 500 mg/dl]
[The disease name was prostate abscess and type II diabetes mellitus (hospitalization notes #2) ]
[Stopped Drinking]
[Inpatient Wards and Privacy]



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♿ The City of Ashikaga Index

[1 All Changed]
 Oh my god! A post office ....?
[2 Collective Madness]
[3 Sumo]
[4 Almost Drowned]
[5 Truck Driver Saved Me]
[6 Teachers]
[7 Firewood Splitting]
[8 Pounding Mochi]
[9 Chibi Was Killed]
 We had a cat whose name was Chibi.
[10 Sweet Acorns]

[11 Fire at the Post Office]
[12 Movies]
[13 Distant Memory]
[14 Distant Memory II]
[15 Bypass]
 Hi, what's going on...?
[16 The Watarase]
[17 Visiting Relatives]
[18 Where the Alley Goes]
[19 Mountains in Ashikaga]
 As sson as you cross ...
[20 Aoyama Clinic]

[21 Barbar's]
  [22 All Yellow Around]
 Around the City Hall In Novembe...
[23 A Secret]
[24 My mother's illness]
[25 An Encounter]
 It was an autumn afternoon.
[26 Ma-kun]
[27 Chibi's Grave]
[28 Natto or Manju?]
 During winter, a lady came along the street...
[29 Surprised and Running Back at Full Speed]
[30 From Ashikaga to Kiryu, to Omama]

[31 Master in One Art\]
 Katchan is second to none in...
[32 Community Benefit Center]
[33 My Mother's Sisters]
[34 Chased after by a Group of Girls]
 It was after rain that day and...
[35 The Little Ones]
[36 Guitar, Bookcase and Fox Fur Collar]
[37 Half-baked Story]
[38 Chinese Character Exercise Notebook]
[39 In Place of My Father, My Brother....]
[40 Terrifying Overturn of the Table]

[41 Cracker Balls]
[42 Where the Alley Goes II]
[43 Photos Taken in Memory of 753]
 We had two black-and-white photos taken...
[44 Sakura-mochi]
[45 What's Sakura Mochi Dreaming?]
[46 Pickled Chinese Cabbage]
[47 An Affair]
[48 House with a Pond]
[49 Playing in the Alley]
[50 Fireworks Show]

[51 Dog's Tail]
[52 Fear of Going Mad]
[53 Shadowing]
[54 Visiting Tokyo]
[55 The Huge Drum]
[56 Pachinko]
[57 Hagiwara-kun]



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🎀 Karaoke

凜根八里


箱根の山は倩䞋の険
凜谷関も物ならず
䞇䞈の山
千仞の谷
前に聳え埌に支う
雲は山をめぐり
霧は谷をずざす
.....
[Hakone-no-yama]-wa [tenka-no-ken]
Kankokukan-mo monorazu
Banjo-no-yama / senjin-no-tani
Mae-ni sobie / shirie-ni sasou
Kumo-wa [yama-wo meguri]
Kiri-wa [tani-wo tozasu]
Hiru nao kuraki [sugi-no-namiki]
[Yocho-no-shokei]-wa [koke nameraka]

[Ippu-[kan-ni-ataru]]-ya
Banpu-mo hiraku nashi
Tenka-ni tabisuru [goki-no-mononofu]
Daito koshi-ni [ashida-gake]
[Hachiri-no-iwane]-fumi-narasu
[Kaku-koso arishi]-ka <-> [oji-no-mononofu]


🎚 News in Levels (+reading)

🗺 Huffpost World News

♒ profile

自分の写真
Japan
栃朚県の足利生たれ。足高+駿台から東倧文1、法䞭退、文卒業で10幎倧孊に。䌁業に勀めず英語関連だけで生きおきた。

シル゚ットロマンスの翻蚳ほか各皮翻蚳、河出曞房『人生読本』、小孊通『プログレッシブ英和䞭蟞兞』に関係、『これを英語で』など䞀般曞、『ダむアグラム入詊英語長文』(桐原曞店)、『英怜準1玚過去問題集』(孊習研究瀟)などを曞いた。

最近たで海倖枡航関連安党情報りェブ翻蚳を長くやっおいた。これからはAIの時代だず思っおいる。

Born in Ashikaga City, Tochigi Prefecture. From Yanagihara Elementary School to Ashikaga 1st Junior High, Ashikaga High, Sundai, University of Tokyo, BA in Literature, dropped out of Law, in college for 10 years.

Worked in English-related fields, first as a translator of Silhouette Romance and then various translations, as well as working for Kawade Shobo, Shogakukan's Progressive English-Japanese Dictionary, and "Diagram Series Entrance Exam English" (Kirihara), and "Eiken Level 1 Exercise Book" (Gakken).

Until recently, involved in web translation of overseas security articles, but lost job due to advances in AI translation, and has returned to blogging I used to do for Nifty.

🌞
 🌞
  🌞🌞🌞

花


春のうららの隅田川
のがりくだりの船人が
櫂のしずくも花ず散る
ながめを䜕にたずうべき

[Haru-no urara]-no Sumida-gawa
[Nobori-kudari-no-funabito]-ga->
[Kai-no-shizuku]-mo hana-to chiru
Nagame-wo nani-ni tatou-beki
Mizu-ya / akebono / tsuyu abi-te
[Ware-ni mono-iu sakuragi]-wo
Mizu-ya / yugure / te-wo nobe-te
[Ware sashi-maneku aoyagi]-wo

[Nishiki orinasu choutei]-ni
Kurure-ba noboru oboro-zuki
[[Geni ikkoku-mo senkin]-no-
Nagame]-wo nani-ni tatou-beki


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🌞 さくらカレンダヌ

瞑想・劄想・画策に


QooQ